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探偵映画 (講談社文庫)

探偵映画 (講談社文庫)

映画界の鬼才・大柳登志蔵が映画の撮影中に謎の失踪をとげた。すでにラッシュも完成し、予告篇も流れている。しかし、結末がどうなるのか監督自身しか知らないのだ。残されたスタッフは、撮影済みのシーンからスクリーン上の犯人を推理していく…。『探偵映画』というタイトルの映画をめぐる本格推理小説


「あらすじ」通り、ミステリ映画の制作途中で(残すは真相披露のシーンのみ)監督が失踪。残されて困り果てたスタッフ・出演者は監督しか知らない唯一絶対の結末(真相)を推理していく、という内容。解説によると推理の応酬により互いの推理の瑕疵を修正し真相に近づくという手法はA・バークリーの『毒入りチョコレート事件』が有名らしいが、この作品を未読の私が連想したのは米澤穂信さんの『愚者のエンドロール』だった。規模は違うが同じ映画制作で同じ結末部分が欠落しているという設定。捉え方によっては喧嘩売ってる(もしくは剽窃)と思われかねない作品を創り上げた米澤さんの挑戦に感心してしまった。また推理を錬成していく様子は西澤保彦作品にも似ているかも。私が好きな作風です。
閑話休題。失踪した監督は映画撮影以前から結末をしっかりと構想していた、という設定からそれまで撮影した映像や脚本の一文章、映画セットの一部分までが推理の手掛かりとなるという点が独特。映像に映っていないものは伏線にならず、背景に等しいセットまでも推理を限定する要素となる。中でも一番面白かったのは、本書の冒頭で自殺している屋敷の女主人役はあるスタッフの母親で「ずぶの素人」だという設定。彼女には演技が出来ないから実は生きていた等の再登場は想定されていない、という映画と制作者のメタ視点からの結末の限定を、本書と読者のメタ視点で見るという多重構造の設定が面白い。
また俳優陣が犯人役を演じる事になれば長時間スクリーンに映し出され脚光を浴びるに違いないと皮算用をし、自分に都合の良い(自分が犯人で名乗り出る!)推理を披露し始める、という展開も人間の欲も感じられて面白かった。しかし私の欲を言えば、どの推理ももう少し力が入っていればより面白かったのにと残念に思った。俳優陣は脚本・ミステリには素人とは言え、高校生の文化祭の出し物でももう少し骨のある推理を提案するよ…、という内容。 で、この『探偵映画』が衝撃的な結末だと言えるかと言うと、…微妙。作中のシナリオを読む限り例の結末以外は丸っきり普通の2時間ドラマっぽいし。更には監督の企みも芸術とはかけ離れた人が悪い企み。丸っきりバラエティ番組の乗り。酷評されかねない。
本書では金城一紀さんの『映画篇』と同じく作中にたくさんの映画作品が登場する。冒頭でこれ見よがしに作品名が登場するのには辟易したけど、これだけの作品を挙げても前例の無い結末だという自信でもあるのかな…?

探偵映画たんていえいが   
読了日:2008年07月14日