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バッテリー (6) (角川文庫)

バッテリー (6) (角川文庫)

「おれはピッチャーです。だから、誰にも負けません」いよいよ、巧たち新田東中は、強豪・横手二中との再試合の日を迎えようとしていた。試合を前に、両校それぞれの思いが揺れる。巧と豪を案じる海音寺、天才の門脇に対する感情をもてあます瑞垣、ひたすら巧を求める門脇。そして、巧と豪のバッテリーが選んだ道とは。いずれは…、だけどその時まで。巧、次の一球をここへ。大人気シリーズ、感動の完結巻。


シリーズ完結。巧と豪の出会いから1年。本書は、1巻と同じく花の香りが梅から桜へ移り変わる頃の話になっている。思えば遠くへ来たもんだ。この1年、彼らは多くの経験をした。野球を奪われた。信頼を奪われた。苦痛を、苦悩を与えられた。そんな中でも変わらなかったものもある。野球への、一球への想い。誰かに与えられるのではない、誰にも押さえつけられるのではない、自分と自分たちだけの野球。もしかしたら人生で一番自由な、一番楽しい試合が始まる…。
地元の、そして全国屈指の強豪校・横手との対決がいよいよ幕を開ける。その実現の裏には様々な想いがあった。不完全燃焼を余儀なくされた新田東中の3年生たち、原田巧に魅入られた者、原田巧に屈折した思いを抱く者、全ての想いに決着が付けるために彼らは、彼らだけでの試合を実現するために奔走した。それは3巻で戸村監督が正攻法の「大人ルート」で成し遂げられなかった事だ。それを成し遂げた。そこにこの試合の意義がある。
この練習試合は決して記録に残らない非公式戦。けれどきっと名勝負として語り継がれるであろう伝説の一戦。この記録に残らない戦いが、新田東の去年の活動停止が、来シーズン、新田東が台風の目となる「雌伏」の時だったのかなと思わせられる。そして現れる脅威の新人、その名は原田巧。私はその名前を1年以上も前から知っていた。彼の強さも弱さも、厳しさも優しさも、家族構成も意外に幼い純粋な面も全部。その全部がこのシリーズには詰まっているのだから。
うーん、でも全体としては不完全燃焼。読書中、「このシリーズは名作なのか?」という疑問が湧き上がった時点で答えは出ていた。本シリーズの、特に1巻は本当に素晴らしいと思う。巧の造形、作品の構成、著者の集中力に恐れ入った。けれど正直、3巻辺りからテーマがよく分かっていない。千言万句を費やして彼らの苦悩や心情を書き連ねても、各巻でぶち当たり、破ってきた悩みの違いがあまり分からなかった。巧と豪の関係性の変化には堂々巡りという印象だけが強く残った。またシリーズ全体でも横道が多かったように思われる。
思うにそれは著者の中で瑞垣の存在が大きくなった、なり過ぎたのではないか。特に本書の前半は完全に瑞垣が主役だ。これまで隠し通していた部分が多かっただけに、巧に直接・間接的に本音を晒されたのは瑞垣なのだろう。けれど彼の屈折した幼なじみへの気持ちは、また別の機会に、と思わないでもなかった。著者の言葉に従えば、巧を『捉えきれぬままだった』から、饒舌な瑞垣や吉貞に物語を委託してしまったのではないか、と疑ってしまう。彼らのキャラクタもまた特異なものだとは思うが、著者こそ直球勝負から逃げたなという感は禁じえない。
またこの最終巻では各人の会話から巧との距離の変化が読み取れるようになっている(母や祖父、監督やチームメイト)。けれど青波のエピソードだけは用意されたものという印象しか受けなかった。強引で、不必要で、強制的な成長を促された。巧だったら一生、口を利いてもらえないような仕打ちだ。最終巻だからといって青波の成長にまで決着を付けなくても良かったのではないか。
幕切れに関しては私は支持派。秘すれば花、かなと。要するに前述の通り、この試合が開始される事、その過程に意義があり、結果には(それほど)意味がないのだ。あるとすればそれは「チーム」にとってだけ。個人やバッテリーにはない。最後の場面がシリーズで、野球で一番美しい場面だった事に間違いはない。

バッテリー<6>   読了日:2010年07月16日