- 作者: あさのあつこ,佐藤真紀子
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2004/06/25
- メディア: 文庫
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「育ててもらわなくてもいい。誰の力を借りなくても、おれは最高のピッチャーになる。信じているのは自分の力だ…」中学生になり野球部に入部した巧と豪。二人を待っていたのは監督の徹底管理の下、流れ作業のように部活をこなす先輩部員達だった。監督に歯向かい絶対の自信を見せる巧に対し、豪はとまどい周囲は不満を募らせていく。そしてついに、ある事件が起きて…。各メディアが絶賛。大人も子どもも夢中になる大人気作品。
登場人物の誰もが、そして読者の多くが巧を嫌いになるに違いない2巻目(苦笑) 今回の巧の態度(特に年上に対して)と、それが原因で起きた事件に「お前ってヤツは…」「だから言わんこっちゃない…」と因果応報という言葉を思い出した人も多いはず。しかし、「陰険な出来事だったけど、今回の事が良い薬になれば…」なんて巧の更生(?)を期待するのは大間違い。巧は今後も自分に「バカ正直」に生きるのだろう。だってバカなんだもん。それが原田巧なんだもん。
「バカ正直」、この言葉が読書中ずっと頭にあった。巧は他人からの助言や命令も自分が納得出来ないと従わない。それは、作者の「あとがき」の言葉を借りれば『なんという傲慢、なんという稚拙』。だけど同時に巧は純粋だ。少年は笑う時は大いに笑い、冗談も言う。もちろん自分が機嫌が良い時限定だけど(笑) しかし他人の顔色を窺ったり駆け引きのない、いつも直球勝負の彼の笑う時の顔はきっとひどく魅力的だと思う。そして自分の痛みを周囲に決して漏らさぬ巧は、間違いなく強い。家族内で唯一バレたのは青波だけ。登場シーンが少ないけれど青波は以前にも増して超能力者っぷりを発揮してます。
私は非従順で周囲と協調をしようとしない彼をやはり傲慢で稚拙だと思う。だけど思うのだ、それは私の考え方による私の視点でしかないと。この物語を読みながら、私はいつも大人になった巧を想像する。多分、変わらない性格を、グラウンドで活躍する彼の姿を。例えば本書を成功者・原田巧の過去の物語として読んだ場合、自分を曲げずに信じ続けた彼の行動や選択はある種の武勇伝・伝説として読まれるだろう。成功した大人になると肯定される事が、子供の時は否定されるべきなのだろうか。私は混乱する。原田巧の態度を肯定も否定も出来ない。
私の予想を裏切った後半の展開は、お定まりの展開なんか用意するもんか、巧という人物を読者の理解の範疇になんか収めるもんか、という作者の気概を感じた。確かにそうだ。巧を理解出来なければ出来ないほど、その個性と魅力は増す。だからこそ本シリーズは児童書のカテゴリの中で異彩を放っているのだ。巧のキャラクタこそ決して作品内でぶれてはいけないのだ。
黒幕の冷静さがとても怖かった。腕こそ震えてはいたもののラストのあの場面で開き直り、取引をしようとする度胸、自分を分析する冷徹さ、ただ他者を服従させ掌握しようとする欲望、それがとても怖かった。けれども今回の展開は野球を100%心から楽しまない邪魔者の排除が目的みたいで不快でもあった。先輩方が悪事を働かせられる事によって勧善懲悪の構図になってしまった。公立中学の部活動では先輩方が巧の態度に眉を顰める気持ちも私には分かる(その後の行為は決して許されないが)。やはり私には分からない。原田巧は正しいのか。