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九杯目には早すぎる (双葉文庫)

九杯目には早すぎる (双葉文庫)

休日に上司と遭遇、無理やり酒に付き合わされていたら、上司にも自分にもまるで予期せぬ事態が―(小説推理新人賞受賞作「キリング・タイム」)。などなど、運の悪い男が不幸な目に遭う見本市のような、憐れにも可笑しい、上質のミステリー九編。「小物のセコさを書かせたら抜群にうまい」と評される著者の腕に酔い、大失敗のドキドキをご一緒にいかが。


50ページ余の短編が4つにショートショートが5つ収録されている作品集。どの作品にも癖のある人間が出てきて、その人せいで皮肉な結末へ転落していく、という感じになっている。読んで(その人物を)不快に思わせるのは筆力の賜物なのだろうけれど、連続で読むと気持ちがどんよりしてきました。また、意識的に揃えたのか似たような設定・トリックが多く、特に(ネタバレ:反転→)不倫・嫌な上司・心臓発作・毒物・叙述トリック(名前の錯誤)(←)などはパターンと化し、後半に進むと「またか…」と、楽しさは半減してしまった。興味を惹かせ続ける構成は上手いし文章も流れるように読める反面、軽く流して読めてしまうのも事実。次は緩急のある様々な流れで、色々な気持ちを味わわせてほしいと思った。

  • 「大松鮨の奇妙な客」…尾行した男が鮨屋でとった奇妙な行動。その裏に隠された真意とは…?中盤〜終盤、視点の変わり方には驚いたけれど、感触的にしっくりこない結末。一本取られたけれど、力任せの一本背負い。「技あり」ではない。
  • 「においます?」…著者には不倫願望でもあるのだろうか。あと上司への不満。
  • 「私はこうしてデビューした」…ネット上で小説を発表している相尾翔の元に合作の要請が来た。最初はやんわり断っていたのだが…。電波系の描写が上手い。この作品、単品で食せばかなり美味しい。ただ後の料理も同じ味付けにはゲンナリしてしまう。アレには疑ってかかれ、というパターンが出来てしまったのだ。
  • 「清潔で明るい食卓」…ショートショートは状況説明の自然さとの闘いですね。
  • 「タン・バタン!」…仕事や上司への悩みを抱えている串本にはバーでの時間が幸福だった。が、会話の噛み合わない客と顔見知りになってしまい…。最初と最後の文章の使い方が上手い。ただ串本があの場から逃亡する必然性に乏しい感じがするし、気を配っていたのにカバンを間違えるということも不自然だと思う。
  • 「最後のメッセージ」…短編にしてもいいのではないか。ちょっと文章が硬い。
  • 「見えない線」…バーテンダーのノリオの気になる女性客には不倫相手がいた。ある日、彼は彼女の幸せのためにある行動に出るのだが…。これは狭義のミステリではない。主題は自意識の問題である。これは西澤保彦さんが書きそうな題材だと思った。またも皮肉な結末でやりきれない。誰も幸せにならない本です(笑)
  • 「九杯目には早すぎる」…表題作。魅力的な題名だけど、魅力的な内容では…。
  • 「キリング・タイム」…近所に住む上司とバッタリ会い飲む事になった佐伯。だが彼には上司に対して、ある負い目があり…。もう(→)叙述のミスリーディング(←)には騙されません。トリックに見当がついた私は(→)みのりが男という同性愛オチ(←)だと思ったのだけれど違いました。さて彼らの行く末はどうなるのか…。

九杯目には早すぎるきゅうはいめにははやすぎる   読了日:2006年04月13日