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少女漫画と小説の感想ブログです

白紙の過去にウンザリする日々は終わり、君と生きる まっさらな未来に期待が膨らむ。

ガートルードのレシピ 2 (白泉社文庫)
草川 為(くさかわ なり)
ガートルードのレシピ
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

白紙となっていた「ガートルードのレシピ」は驚くべき場所に移されていた…! ガートルードの創造者クロードの時を越えた遠謀に翻弄され、ガートルードは致命的な傷を負う…。追いつめられた状況の中、ガートルードとの絆を深めたサハラはクロードとの最終対決を決意。そして遂にサハラの命とガートルードの運命をかけた最後の術式「リワインド」が発動される…!

簡潔完結感想文

  • レシピで作られた悪魔に魂の融合体があるならばレシピの逆の手順で不純物を取り除く。
  • 相手のためなら自分を簡単に諦めることの出来る悪魔と、簡単に相手を諦めない人間。
  • 創造主の趣味で命を与えられた存在が主導権を奪って創造主の人生の方向性を決定する。

ニメ化にピッタリな原作ありますよ、の 文庫版最終2巻。

アニメ化しないかなぁ…。2020年代はアニメ化の原作の枯渇が問題だ(多分)。それなら本書はどうだろうと推したい。それに超人気長編作品を原作にした場合、アニメ化が微妙な結果になると完走しないまま中途半端に終わることが多い。けれど本書なら原作が とうに完結済みで1クール全12話ぐらいに丁度まとまる分量だと思うんだけど どうでしょうか。勿論、漫画はアニメ化するために存在する訳じゃないんだけど。

最後まで本当に素晴らしい作品だったけれど、中でも良かったのは敵意を向けられた相手への理解が ちゃんとあるところじゃないだろうか。
それを強く思ったのはクライマックス。敵であるクロードと その妻・ハロンの現在の悲しい関係が、ガートルードと漱(すすぎ)の悲しい未来の姿を暗示させている構図が秀逸で震えた。そしてガートルードは漱という大切な人に出会ったことで生まれた時には分からなかったクロードの悲しみが分かるようになっている。
相手の事情や人生(悪魔だけど)が分かるから辛い。それはガートルード誕生のために身体のパーツを奪われたプッペン・マリオット・カーティスの心痛をガートルードが理解すること、そして その逆にパーツの集合体であるガートルードの心情を彼らは想像するから手を取り合うことも出来る。相手との相互理解、それを出来るだけの登場キャラたちの寛容さと聡明さが描かれていて血の通った世界が広がっている。

そういえば本書はスタート時からでは誰の命も奪われていない。一番ボロボロになったのはガートルードじゃないか。そしてクロードでさえ巻末の番外編を参考にする限り、悪魔の身体のパーツを蒐集してはいるものの殺害などによる強奪では なさそうだ。上述のプッペンたちのことも含め、ガートルードの身体のパーツは彼と世界を繋ぐ理由になっているようにさえ見える。これからもパーツの奪還に来る者はいるけれど、でも それはガートルードが出会う人々がいる可能性でもある。その出会いと交流がガートルードのオリジナルの人生となっていく。

自分に大切なものが出来なければ理解し得ない相手の心。その理解が葛藤を生む

た最終回の親切なガイドも良かった。ガートルードという悪魔は外側だけで中身は白紙。それは表紙だけだと判明した「ガートルードのレシピ」と同じ。そして人工悪魔の成り立ちが記されたレシピは漱の中にあったけれど、今度は漱と一緒に白紙の未来を幸福で埋めていくという示唆が分かりやすくて描かれていた。魂以外、身体も名前も全て人のものだったガートルードが漱に名前を呼ばれることで自分の名前に誇りと喜びを持つという展開も素晴らしい。

2人それぞれにある因縁の対象を1人(クロード)にまとめているから物語がスッキリしている。ガートルードにとってクロードは生みの親であり生きる苦難の元凶、また漱にとっては兄・久作(きゅうさく)でもある。同じ人を別の視点で見ることで物語が多層になり、それでいて2人が同じ方向を向くシンプルな理由を作っている。上述の相手への理解もクロードの複雑さに由来し、それぞれが大切な人を失くす危機になっても恨み切れないことで葛藤が生まれている。


書はガートルードという悪魔の話なんだけど、ガートルードと悪魔を上手に分離させてみると、自己嫌悪を繰り返してきたヒーローが、ヒロインに肯定され、人生を前向きに歩く気持ちを取り戻すシンプルな構図が見えてくる。最初から長編作品のクライマックスで用意されるヒーローの問題やトラウマが開示された形の物語だったのか、と今更 納得する。上述の通り、クロード・久作問題があるから漱もガートルードと同じレベルの苦悩と葛藤が生まれている。そこもまた2人が同じ立ち位置にいるようで気持ちがいい。確かにガートルードは作品最強(の悪魔)という白泉社読者が好むヒーロー像なのだけど、漱もまた精神力は同等で、だからこそ2人は種族を越えて、フェアで対等でいられるのだろう。成績とか財力とか男尊女卑を平気で繰り広げる白泉社に於いて対等性を感じられたのも好感触の理由だろう。

1つ疑問なのが、パーツの寄せ集めのガートルードに魂が生まれるのはなぜか、という根本的な疑問。クロードの実験が成功したからなのか(双子の魂を起動スイッチにしているとはいえ)。悪魔だから妖怪みたいに物に宿ることもある、ぐらいに考えた方が良いのかな。悪魔は魂を簡単に取り出せると考えるとクロードは どこかから魂も調達しており、それが双子の魂によって強制起動するまで眠ってたと考えた方が現実的だけど、そうすると本当にガートルードがオリジナルで所有するものが一つもなくなってしまうから ぼやかしているのだろうか。決定的な矛盾じゃないからいいんだけど。


庫版の あとがき に作者の初連載で22、3歳の頃の作品だとあって びっくり。作品への集中力、キャラクタへの思いの馳せ方、それぞれの関係値、そして動機の作り方や理解の手掛かりなど こんなに上手い人がいるのかと驚く。2026年の私からすると25年前の驚異の新人だと思うけれど、知名度的に そこまでじゃないことに驚く(失礼だけど褒めている)
あと作者は文章・モノローグが上手。これはセンスとしか言いようがない。絵は上手くても文章が下手な作家さんがいて、感動的な場面が借りてきた言葉の羅列になってたりすると残念に思うのだけど、作者は短く切れ味の鋭いセンテンスを繰り出している。読書量とか知識量とか そういう豊かさを端々から感じる。


はクロードに連れて行かれた大学の旧校舎の中にガートルードという女性と その双子の妹でクロードの妻のハロンの2つの遺体を見る。亡くなって100年が経つ2つの遺体と現ガートルードの関係は、魂を共有している者同士。ガートルードの中には双子の姉妹とガートルードの3つの魂がある。

3つの魂で主導権を取ったのはガートルードだが初期は女性のガートルードが頻繁に表に出ていた。だからガートルードはガートルードと呼ばれることになった。満月の夜に強くなるガートルードの本性とは他の2つの魂のことをだった。そしてクロードが久作(きゅうさく)の身体を使った人生の延長戦を望むのは、ガートルードの中の妻・ハロンの魂を切り離し。遺体が100年経っても朽ちないのは姉妹が悪魔と人間の子だからで、クロードはハロンの遺体に彼女の魂を戻したい。そして終わらされた彼女の人生を やり直す。そこで自分の姿が変わっていても彼自身は問題がない。ハロンが どう思うかは別だけど。


ロードがガートルードではなく漱を狙うのは、互いに混ざり合ってしまった魂の切り離しに漱の中にあるレシピが必要だから。そして漱の命を使って、一番 融けかけているハロンの魂を取り戻す。

そのクロードの決意を知っても漱はカーティスがクロードの命を奪う結末を望まない。優位だったカーティスは逆に追い詰められて、クロードは漱を利用しようとする昏倒させる。その背中にカーティスはクロードの漱への思い遣りが確かにあることを告げる。
漱はクロードによって自由を奪われる。クロードはカーティスの言う通り、漱の骨にレシピを移管した時よりも漱を想う気持ちが強くなっている。それでもクロードは漱の命を使った術式を始める。

自分の命の危機でも、もはや兄ではないと分かっていても選べない選択がある

傷と満月が重なったガートルードは自分の主導権を奪われそうになるが、仲間たちの行動によって自我を保つ。その後、表紙だけの「レシピ」が常に反応していることを知り、漱のもとに仲間たちと飛ぶ。

ガートルードが到着してクロードの目的を把握し、漱の生存を確認する。だが漱は呼びかけに応えない。それはクロードが漱が次に目覚めた時に術式の動力として使用するようにしているため。術式はガートルードの誕生の顛末を巻き戻すもの。どこかで融合し始める魂を見極め、3つの魂であった時に戻すのが目的。

危険な賭けだが漱という動力が動いている間に彼女を助ければ失わないかもしれない。だが それは今のガートルードという存在の解体を意味する。


ロードは術式を展開させ、漱の命の消費のタイミングをガートルードに託す。それは どちらか、または両者の別れの時。けれどガートルードは破滅のスイッチを自分で押す。他に方法がないから。目を覚ました漱も それは分かっているけれど、どうしても自分をすぐ差し出そうとするガートルードに怒りと悲しみを ぶつけてしまう。
それでも葛藤の中にいる2人は手を取り合って、唯一のチャンスに賭ける。

100年前、イギリスのクロードの自宅でガートルードは生まれた。双子の姉妹は庭師の娘たち。父親が人間で悪魔だと推測される母親の姿はなかった。クロードの死後、自宅はホテルになり漱の両親と兄・久作は そのホテルに滞在し、そこでクロードの魂が兄に入った。

そこからの双子の姉妹の回想は巻き戻しの名の通り、結末から先に提示される。悲劇があって、その悲劇が起きる理由と過程が描かれる。3つの魂が混じり合ったのは、そこに魂を入れる座=今のガートルードが存在したから。ガートルードは その肉体の成立に悪魔たちから恨まれ、その精神の成立に生みの親であるクロードからも恨まれる。名前すらも誤解から生まれた、魂の一部しか自分のものではない存在。単なる回想にしないで必要事項を最短で巻き戻す手法が上手い。どこを切り取っても上手いことが凄い。


がて指先から灰になっていくガートルード。それは2人の最後の時間。ガートルードの生を支えてきたのは運命への抵抗。けれど今はガートルードを慈しむ漱がいる。それが人生最大の成果。お互いに限界が近づく中、ガートルードは自分の身体に文字を記す。このタイミングはガートルードが身体を支配することが出来るタイミング。

命令は、漱の命が燃え尽きる前に自分の存在を消すこと。術式の対象物が消滅すれば術は強制終了する。それがガートルードの狙い。その願いと狙い通り、漱の命が尽きることはないが、その世界にガートルードの肉体は もうない。

これまでも ずっと思考し続けてきた漱は絶望の中でもガートルードのために今ある手持ちのカードを再構築する。そこに仲間たちの協力があってガートルードは再誕する。これは血液の一滴までガートルードは自分を所有していたから出来ることなのか。


ロードの目論見は外れ、双子の魂は分離不可能なほど融合していた。その魂が入ろうとするのは姉でも妹でもなくクロード。その状態になってもクロードもまた魂の融合に対して拮抗し、自我を保っていた。クロードの意思は今度は自分と3つになった魂の消滅を願うが、中の双子は それを許さない。意識はクロードでも身体は久作という人間のため自滅は必至なのだけれど、それでも双子は対抗する。

そんなクロードの姿を見ても漱は自分が信じてきた兄の面影を重ねてしまう。どちらか決められないから事態が打開しない。でもガートルードは そんな漱を肯定する。迷いや葛藤が今の漱を形成している。そして その漱にガートルードは助けられた。だからクロードを戻そうとするが、クロードは「妹」ではなく妻を選んだ時点で戻る資格がないと思う。しかしガートルードはクロードの主導権を強大すぎる自分の血の力を使って強制的に奪う。自分が創った命に命を救われる。今度はガートルードがクロードの人生を拓く。

出てきた魂を最強の存在であるガートルードが散らして一件落着。
その後、クロードは全身火傷で長期入院する。火傷の後は残り、元の形には戻らない。けれど その身体との つきあい方がないわけじゃない。それと同じようにクロードと漱の2人の関係も模索しながら構築される。クロードもまた人生の延長戦ではなく今度こそ この2度目の人生を模索するのだろう。どうやら この世界は物体に魂が宿る。ならば久作は死んだとはいえクロードも久作と融(と)けていると考えられるのだろうか。クロードの意思が固くても兄として身体が勝手に反応するのだから そういう可能性もあるだろう。


「ガートルードのレシピ 音楽室の悪魔」…
気が付くと漱と同じ学校の留学生にされていたガートルード。集団催眠状態にかかってないのは漱(と愉快な仲間たち)だけ。その怪異の正体を2人は推理で突き止める。作品で初めて頭部以外のパーツが出てくるけれど、相手の悪魔も別パーツで補完しているので欠損していない。

漱と出会ってガートルードは身体の所有権の問題だけではなく この身体で生まれた記憶を大切にしている。漱が他者の身体のパーツでもガートルードの精神に作用する心身の一体感を教える場面が小悪魔的な魅力を放っていた。恋愛の主導権は漱にあり!?

「ガートルードのレシピ レクイエム」…
ガートルードが誕生した頃のイギリスでのカーティスの話。この時 カーティスは契約で自分の左目を差し出している。それが巡り巡ってガートルードのパーツになる。じゃあクロードが元凶という話なのか? このことをカーティスが知ったら本編のクライマックスで彼はクロードの消滅を願ったのだろうか。そして占い合戦は見える未来、変わる未来の応酬で収集がつかなくて考えようとすると頭が痛い。

「ガートルードのレシピ 雪男の棲む山」…
1960年代カナダ。雪男を追うガートルードは なりゆきで変わった人間とバディを組む。泣き顔じゃなくて笑顔が見たい。それは本編の漱にも言えること。自己犠牲を厭わない何という優しい悪魔なのか。

「むかしばなしのしっぺい太郎」…
2000年代ぐらいまでの白泉社の作家さんが よくやる お伽話や童話のパロディ(?)作品。

自分の主導権を譲らないガートルードは、一方で簡単に自分を犠牲にする悪魔な お人好し

ガートルードのレシピ 1 (白泉社文庫)
草川 為(くさかわ なり)
ガートルードのレシピ
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

名だたる悪魔のパーツを繋ぎ創造された人造悪魔・ガートルード。彼の製造方法を記した「ガートルードのレシピ」を巡り争いは絶えない…。女子高生・佐原漱はある日、パーツを取り戻そうとする悪魔とガートルードのバトルに巻き込まれてしまう。ガートルードの能力とサハラのアシストで悪魔達を退けていくうちに、二人の絆は深まっていき…。

簡潔完結感想文

  • 存在自体を他者から恨まれる宿命を背負った悪魔と、その悪魔に臆することのない少女の邂逅。
  • 昨日の敵は今日の友。恨みより好奇心が勝る悪魔たちのドライな関係により輪が広がる爽快感。
  • 巻き込まれヒロインだけれど助けられヒロインではない。いつも自分の最善を模索する姿が◎。

みの作家さんを見つけた喜びに震える 文庫版1巻。

とっても好き。私の理想とする良い想像力が凝縮された作品だった。正直 長編と長編の間の箸休め&日数の調整のために選んだ作品なのだけど、出会えて良かった。感動が大きかったので読了してすぐに作者の作品を25冊以上 購入したぐらい。

描かれているのは血も涙もない悪魔の世界ではなく根底に情が流れている世界。なかなかサバイバルな世界だけれど、愛情や友愛、家族愛など様々な情が しっかりと それでいて さり気なく描かれている。また強い情で作品を包んでしまわない匙加減も作者のセンスだと思った。

他者の身体のパーツを集めて作られた悪魔・ガートルードと偶然 彼と出会うことで心を通わせる少女・漱(すすぎ)のボーイミーツガールの一面があり、悪魔が出てくるファンタジーであり、パーツの集合体に宿る自我について考えさせられる哲学的内容まで内包している。


が本書で最も好きなのはヒロイン・漱(すすぎ)の造形。いきなり余談だけど第2子が漱、第1子の兄が久作(きゅうさく)という名前なのは夏目漱石と夢野久作に由来しているのだろうか。漱の親は文学好きという設定はありそう。

漱の何が良いかというと思考を止めないこと。悪魔に関わることはピンチの連続なのだけど、漱はガートルードの救助を待つ お姫様ポジションに甘んじない。常に自分の最善の行動を意識し続け動き続ける。その漱の行動の結果で事態が打開することもあり、彼女の行動がガートルードの助けになる場面は読んでいて清々しい。

無謀なことをしたい訳じゃなくて同じ目線でい続けるために行動したい

また極めて冷静で周囲を見渡せているのも良い。1話で人質になる漱は、ガートルードとの関係値を冷静に判断して彼が自分を助ける可能性が低いことを冷静に見極めている。そこで もっと漱を好きになった。漱が動かなくても、泣き叫んでいるだけでも少女漫画は成立するけれど そうはしない作者のことも好きになった。

その他のキャラたちも関係値が しっかりと想像されており、その人を動かすために何が必要か、その人は どういう理屈で動いているのかなどが分かりやすく描かれている。そういう想像力が駆使されているから作品内の空気がとてもクリアに感じられた。


係性で言えば やはりメインの2人の描写が良くて、生まれてから誰かに疎まれる宿命を背負わされたガートルードと その彼を敵意や恐怖なしに初めて接する存在の漱の関係は他にないと感じられた。

ガートルードも常に考える存在として描かれており、彼は強い力を無闇に行使しない。彼が大切にするのは自分の主導権。人工悪魔という誰よりも自己存在の証明がしにくい自分に対してガートルードは常に誇り高くいようとする。パーツの集合体であっても自己の身体と魂は自分のものだと譲らない。

長編のクライマックスで登場しそうなヒーローの苦悩が最初から用意されている

相手の事情に理解を示しつつも譲れないものがある という意識は作中の多くのキャラの根幹に流れるものだと思う。ガートルードが自我に悩むように、漱は一番近しい人の正体に悩んでいるという2人の悩みにも同等性があるのが良かった。その人物の存在によって漱に自分の価値観が浮かび上がるし、その人物のしたことによって漱が物語の中心人物であり続けるという構図も素晴らしかった。

悪魔に出会うこと、自身や家族の問題など冷静に受け入れているように見える強い漱だけど、本当は揺れているに違いない。その弱さを見せないように気丈に振る舞っている、弱さを見せたところで解決に繋がらないと考えている漱のことが とても好きだ。本書で出会えたようなキャラたちに次の作品でも出会うことを願っている。


誌事情は詳しくないけれど作品は「ララDX」で始まり「ララ」本誌での連載に移ったことも当時から人気が高かったことを示しているだろう。それでいて(おそらく)人気が出過ぎなかったのも良い。どこまで作者が構想を練っていたか私には分からないけれど、作者が描きたいことを過不足なく描けた作品なのではないだろうか。作品密度が濃く、常に前進している感じが失われなかったのは少女漫画では珍しい現象と言える。

もし本書が圧倒的な人気を得ていたら緑川ゆき さん『夏目友人帳』方式で、ガートルードに使用された身体のパーツを持つ悪魔たちが次々と襲来して、交流していくオムニバス形式の作品になったかもしれない。そうなった場合の問題は描き方だろう。『1巻』で登場するのは両耳と左目でキャラクタ化された悪魔の身体や髪で目の欠損を隠されていたりするのだけど、手足が欠損した悪魔が登場した場合は紙面に想像以上に息苦しさが漂ってしまっただろう。また連載の回数と登場キャラを増やすために、パーツを細分化させることもグロテスクな雰囲気が出てしまう。連載を続ける中で そういった危惧を回避した(かどうかは分からないけれど)作者と編集部の聡明さに感謝したい。

画力に関しては まだまだな部分は あるのだろうけれど、本書に関しては画力と一生懸命な雰囲気が とても合っているように思えた。絵の感じで椿いづみ さん『親指からロマンス』を思い出したけれど、2000年前後の白泉社への投稿者は こういう画風が多かったのだろうか。真似したい作品が同じだったりしたのかな。


る日、普通の少女・佐原 漱(さはら すすぎ)が悪魔・ガートルードと出会う。ガートルードは自分を目撃した人間を殺そうとするが、漱は機転を利かせて返り討ちにする。ただ漱にガートルードへの恨みがないので傷の手当てをする。悪魔を恐れない少女にガートルードはペースを乱され、そして漱の豪胆さと優しさ、自分に向けられない敵意や害意にガートルードは興味を持つ。

ガートルードは様々な悪魔の身体のパーツの集合体。事故や戦闘で失われた悪魔の一部を蒐集する者がいて、その蒐集物で一体の悪魔を形作った。そうして生まれたのが人工悪魔・ガートルード。「ひとつなぎの悪魔」と言いたくなる。だからパーツを奪われた悪魔たちはガートルードを狙う。
そんな自分の因縁から解放するには「レシピ」が必要で、ガートルードは その処分のために その実験レシピがあると噂される日本の この地に降り立った。「レシピ」に書かれているのはガートルードの作り方。どの悪魔のどのパーツを用いたかが記されており、所有権の正統性の証拠になるのだろう。


ートルードを追っていた悪魔・プッペンとマリオットは漱を人質に取り有利に立とうとするが、漱自身はガートルードとの関係値の低さから自分が助けられるに値しないと冷静に分析する。その落ち着きでガートルードと阿吽の呼吸で逆転の機会を作り、血で一文を記すことで物を操るガートルードの能力を発揮される。

しかし影を操ろうとしてガートルードの本来の姿まで現れ制御できず暴走を始める。選ばれたパーツの最強の人工悪魔というエリート感が白泉社読者に刺さる設定だろう。ガートルードの身体は寄せ集めで、本来の姿も制御できない。それでもガートルードは自分の主は自分だという自我と誇りを持っている。だから自分の身体に一文を記し、本来の姿を吸収し支配する。初回にして最終回のような逆転劇だ。

漱は孤独だったガートルードと気持ちを伝え合う。それはガートルードの100年の人生で初めての経験。淡い恋のような感情が描かれる。

ガートルードがパーツを返していく時、どこで彼の意識は途切れてしまうのか

ッペンとマリオットが仲良くガートルードと一緒に暮らす頃、漱も足しげく彼らが住処(すみか)にする屋敷に通うようになり、この場所と関係性を失いたくないと思い始める。

今回も漱はガートルードの弱点として認識される。彼女を救出するかどうかでガートルードの漱の重要性を観測することが狙い。漱は救出を待つだけの お姫様ではなく自力での状況打破を試みるところが良い。ガートルードが到着した後も彼との共闘が前提になっている。漱だけではなくマリオットとの共闘になっている仕掛けも、関係性の構築の輪が もう一周 広がっている。


3話目にして「ガートルードのレシピ」が登場する。ただし表紙だけ。
月が満ちる時、悪魔は最も力を発揮するけれど、ガートルードの場合、自我のバランスが崩れ精神的に不安定になる。「凶悪な本性」は まだガートルードの中にある。髪色が黒く染まったりと にじみ出る力を制御することに精一杯なガートルードは満月の夜が最弱とも言える。

そんな時に登場するのがガートルードに左目を奪われた悪魔・カーティス。彼は「ガートルードのレシピ」が この町にあると噂を広めた張本人。カーティスはガートルードの不自由な生き方に興味を持つ。カーティスが目の前に取り出したレシピが漱に反応する。漱自身に覚えはないが近しい家族が何かを知っているのではとカーティスは ほのめかす。

カーティスは上級悪魔らしく最弱時のガートルードでは敵わない。プッペンたちはガートルードを助け、そしてプッペンたちのピンチにガートルードは左目を提供しようと考えるほど情が湧いている。けれど それを漱は許さない。ガートルードが本性を恐れても自分が何度もガートルードに呼びかけると漱は彼の弱気を追い出す。そうしてガートルードは自分の操縦権を失わないままカーティスを退散させる。漱の言葉はガートルードを操る力を持つ。


シピの記述は術で移管されている。その記述の謎に最も近いのが漱だとカーティスは考え、実際 表紙は漱の存在に反応する。

ガートルードは漱の父母を対象外と認定したため、謎に最も近い家族が9歳年上の26歳の兄・佐原 久作(さはら きゅうさく)となる。久作は大学で民俗学の助手をしている。ガートルードは久作の姿にクロードという故人を重ねる。

兄と過ごす久々の時間の中で漱の乗ったエレベーターの落下事故が起き、ガートルードが能力で最悪の事態を回避する。その際に腕を打った漱がレントゲンを撮ったところ、骨に文字が記されていた。それこそが「ガートルードのレシピ」。医師からの説明に冷静に対処した久作は、催眠で事実を知る者の記憶を操作する。そしてガートルードを「自らの傑作」と言う。兄は真っ黒だ。
ガートルードは久作を危険な存在と認識するが、漱を手放す気はない。


のレントゲンを撮ったはずなのに両足骨折が判明した漱。これは久作の自宅軟禁計画だった。薬によって漱に暗示を掛けているらしい。目的はガートルードを漱から物理的に切り離すためと言える。しかし漱はトイレはどうしているのだろう…。プッペンとマリオットが初めて人間体で登場し漱の家を訪問するが結界に阻まれる。どちらの人間体も それぞれ人気が出そうだ。

漱が軟禁状態にあると思い当たったガートルードは救出作戦を決行する。今回も漱は救出されるだけでなく兄の持ってくる謎の薬を飲まないで自力でガートルードとの連絡手段を模索する。漱が自室だと思わされていた場所は兄の大学の関連施設の一室。そこで漱は自分の身体にレシピがあること、そして兄が全てを知っていることを知る。
それぞれが動いたために繋がった電話回線によって2人は再会。ガートルードは久作がクロード本人(以下・久作ではなくクロードとする)であることも確認する。


学施設脱出の際、漱はレントゲン写真を証拠として持ち帰っていた。それはガートルードが長年追い求めていたもの。だから漱はガートルードの出方、自分の命を考えずにはいられない。兄が信用できなくなったようにガートルードも同じではないかという不安が渦巻く。

ガートルードは冷静で自分たちでもレントゲン撮影をして漱の骨のレシピを再確認する。クロードによって送り込まれた悪魔との一戦の中で、ガートルードは漱の不安を消す(1話1回のバトルが必須なのか?)。ガートルードは本から移管されたレシピを骨から戻す道を模索する。


ートルードはレシピ移管のために悪魔用の本屋を当たる。しかし知識欲が旺盛な店主は漱の中に知識の匂いを感じて彼女を襲う。なぜ連れて来たのか と考えてはいけないのだろう。バトルは いつも通り。迷惑を掛けられた分だけ味方に近い存在になる。


ロードのテリトリーのため自宅に戻れない漱だけど両親は兄の暗示を受けており漱の不在を疑問に思わなかった。しかし途中で路線変更して暗示を一部 解除することで漱が自宅に戻って来ざるを得ない状況を作り出す。

漱が悪魔やレシピの存在を説明しても両親は信じられないだろうから、人間側の対応をしているクロードに分がある。そして その状況は漱の人情にも作用する。漱に同行するためガートルードはクロードの罠だと理解しながら漱と家の敷地を跨ぐ。

対峙したクロードは家族を見殺しにする可能性で漱を揺さぶり、肉体は確かに この家の久作という息子だが魂はクロードであることを明かす。クロードにとっては短すぎる人生の延長戦。クロードは入れるけれど出られない結界を張っており、そこからの無理な脱出で満身創痍となる。

屋敷で療養するガートルードに対し、漱は両親を放っておけないけれどガートルードと離れ難い矛盾する心を正直に話す。だから その両方を手に入れるため漱は行動する。一緒に居るための別離を決意して2人は別れのキスを交わす。
全体から見れば半分にも満たない段階での両想いやキスの恋愛イベントの連続だけど、これは もう この時点で最終決戦前であり、ここから2人は別離し ゆっくり話す機会がないからだろう。別れの前に自分たちが心を通わせていることを確認して彼らは自分の すべきことをする。漱は高校生ヒロインだけど精神的に成熟している。


ートルードはクロードの罠に向かう前から満身創痍になる結末を見越していた。そのために用意していた人材がカーティス。ガートルードはカーティスに漱の護衛を頼む。その代償は左目の返却。カーティスにとって利益の無い提案だが それでもガートルードは漱を守るために彼を召喚した。

そこでカーティスの条件として漱とのゲームが提案される。漱は魂を半分差し出し、カーティスとの勝負に挑み勝利する。ただ守られるだけではなく その相手に それだけの価値を認めさせる気高さが作品の品位になっている。


の帰宅を確認してクロードは瘴気を溜め込んでいた佐原家の結界を解く。娘の帰宅を確認して両親たちは倒れるように眠る。そこで兄妹だけの会話が始まる。兄・久作は7歳の時にイギリスで事故死。そこで近くにいたクロードが身体を拝借した。クロードは日本語の習得に時間が掛かったが それは事故の後遺症として処理され、それ以後 両親も久作のアクシデントを家族の話題に上げなかった。

一方、ガートルードも過去を語る。彼の意識が生まれたのはクロードの実験室。誕生からしばらくは意識に混濁が見られ実験室から出る事を許されなかった。そしてガートルードの意識が安定するのと逆にクロードは狂い始める。だからガートルードはクロードが自分を作った理由を知らない。

本来ガートルードは女性名だとカーティスは指摘し、それにクロードは反応を見せる。そしてクロードは久作ではないとしながらも本当の兄のように漱の安全を優先する。その矛盾に漱は戸惑う…。

「ガートルードのレシピ カバンの中」…
マリオットのカバンの中に何が入っているのか気になりだしたプッペンは強硬策に出る…。あっという間に仲間陣営に入った2人の悪魔の話。本編だけでも良い味を出していた2人が更に好きになる。

「ガートルードのレシピ 部活動の詩(うた)」…
マリオットは毬夫(まりおっと)、プッペンは福辺(ぷくぺん)という名前で放課後の部活動に参加している。暗示をかけて毬夫は家庭科部、福辺は美術部の活動を楽しむ。本来の姿を見られないように注意している2人だが…。漱以外の人間も寛容な世界が広がっており、それが作品の良い空気感に繋がっている。

マリオットとプッペンでスピンオフ作品が作れそう。それぐらい愛らしいキャラ

「ガートルードのレシピ 少年慶人の第六感」…
霊感のある小学5年生の慶人はバスを降りてから人ならざる者につけられ、自宅で恐怖体験をする…。マリオットたちが悪いものではないのは承知だけど、こんな教育的な活動をしているとは思わなかった。

「ガートルードのレシピ ダイエット・プッペン」…
食いしん坊のプッペンは静かに太っていた。そこでマリオットによるダイエットメニューが実行される。料理上手な配偶者を持つ夫婦の顛末のような話。お料理BLっぽさもある。