
sora
墜落JKと廃人教師(ついらくジェーケーとはいじんきょうし)
第16巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
灰仁の同級生との邂逅により、彼の昔話を聞いた扇言。募る寂寥感は夏の終わりのせい――?一方、灰仁に宣戦布告をした一馬が扇言を自宅に招いて…!?「今日も…かわいいよ」夏の終わりに波乱の幕開けキケンなつり橋効果LOVE!
簡潔完結感想文
- おそらく作品の最後の夏。やり(描き)残したことが無いように夏休み期間だけで2巻以上を使う。
- 灰葉よりも一回りは年下の一馬は、灰葉のように扇言を上手く誘導できず、ラッキー胸キュンならず。
- 2人きりにならないように気を遣っても、緩衝材となる第三者と教師と生徒が出掛けている事実は不変。
この夏の2つの目撃談を総合すると導き出される推論、の 16巻。
長かった2回目の夏が終わる。作者が『14巻』の「Postscript」で言及しているように、扇言(みこと)の高校「2年生の夏休みは、極力 現実の季節感に合わせて描いていた」ので「夏のエピソードが色々と余っていた状態」で、扇言が3年生の この夏は作品にとっても最後の夏だから「描き忘れがないように気を付けて描い」ているようだ。だから『14巻』から2巻以上も夏休みが続いていたのだろう。不動の人気を獲得して定期連載になったからこその贅沢な時間の流れと言える。作中の時間の流れが一定ではなく連載自体も安定していなかった最初の夏(『3巻』)の頃とは現実の状況が違う。もはや あずまきよひこ さん『よつばと!』並みに夏が長く、毎日のように何かが起きているけれど、それは特別なことではなく平穏な日常の連続である。
また1回目の夏は お墓の前で死者のために(おそらく)線香を立てた2人だけど、2回目の夏は自分たちの青春を送るために線香を立てているように思えた。お互いに会うまでは灰色だった青春の記憶が昨年から色づく。それは とうに青春を終えた灰葉(ハイバ)も同じだろう。扇言と一緒にいるお陰で彼は自分の中に くすぶっていた青春の記憶を昇華できた。人が認識する時間の早さは記憶の濃淡で変わる。特別な時間が多かった この夏の記憶が多いのは2人とも同じで、それは忘れられない夏の思い出になるはずだ。
この夏が長いのは人生の盛りのような濃密な時間だったからではないだろうか。


今回のラストから教師モノらしい展開が始動する。この展開が来ると終盤だなぁと思う。これまで「石ころぼうし©ドラえもん」でも使っているのかと思うぐらい学校内外での目撃証言の無かった苔(こけ)のような2人だけど急に ひみつ道具の効果が切れたか。ただ それも急展開ではなく、長かった夏を ちゃんと利用していることが好感触。日常回の中に今後の伏線を用意する周到さが作者らしいし、また一方で どうせ大したことは起きないんじゃないか という作品への安心感もある。
これは灰葉への安心感とも言える。この夏に限らず2人は ちゃんと外では2人きりになっていない。一馬(かずま)や詞(つかさ)という第三者を用意しているところに言い逃れのプロである灰葉の人生観が出ている。灰葉に任せれば絶対に この噂は鎮火すると思える。そういう信頼感を作品は醸成し続けてくれている。まぁ学校内でのイチャつきは油断し過ぎじゃないかと苦言を呈したくなるけれど…。
日常回の中に次の展開の布石が紛れ込ます手法は『16巻』の各所でも見られ、再読すると ここで予感を覚えさせていたのかぁ など作者が灰葉のように巧妙に読者の意識を誘導している部分が見えてくる。高い構成力を発揮している場面に出会う度に聡明な作者を尊敬してしまう。
冒頭は夏休みの過ごし方。一升(いっしょう)の昔話に影響を受けた扇言は自分たちの過去の夏休みについて語り合う。この2年間は2人にとって人生で最も濃い夏の過ごし方だろう。その日、一日に起きたことが無かった昔の自分たちを供養するかのように2人の間に線香が立てられる。扇言の兄と2人暮らしの家には線香が常備されているのか。
夏は続き、蝉をはじめとした様々な虫回。2回目の夏は、扇言と灰葉は変わらない関係だけど、扇言と一馬の間に恋愛感情が自覚されたため疎遠になる。そうでなくても扇言は高校3年の受験生だから遠慮したかもしれないけれど。
灰葉は当て馬になった一馬と話し、一馬が お邪魔虫であっても追い払ったりせず、扇言との交流を促す。それは一馬のためであり扇言のためなのだろう。この回で なずな がバイトしていることが明らかになっているけれど、以前(『4巻』)では妹の青春を優先して淳人(あつと)は なずな も家計を支えようとすることを許さなかったけれど、今は許したということなのか。一人で背負おうとする淳人の心身の負担が減り、彼が ただのワーカホリックになっていると嬉しい。
また終幕が視野に入り始めた この回で重要なのは扇言の子供への接し方の上手さだろう。
なずな と3人ではあるが扇言と自宅で勉強会を開催する一馬。
緊張しすぎた一馬は なずな を先に招き、彼女に相談。そこで対扇言シミュレーションが開始される。この回で誰が読んでも なずな の気持ちがハッキリするので再読すると、ドタバタコメディに隠れた苦みを検知できる。一馬は なずな を無自覚にドキドキさせ続けているのに、扇言は事前準備を台無しにし続ける。


本当は ごねるほど一馬の家に扇言を行かせたくなかった灰葉の我慢を慰労するために扇言がカレー作りに挑戦する料理回。ちなみにレシピは薫子(かおるこ)直伝。薫子、本当に出番ないよね…。この ご機嫌取りは兄・詞(つかさ)に相談の結果。しかし扇言が風呂上がりの詞と一緒に食事している1コマだけで泣ける。それにしても詞は微妙にダサく見える。昭和感が漂い、ローテーブルは ちゃぶ台に見えるし、タオルは手ぬぐいで、部屋着も木綿の肌着に下はステテコではないかと思ってしまう。
そこから2人の料理にまつわる話が展開する。灰葉は子供舌なことが判明。意外とワガママに育っている。描写はされないけれど2人は合法的にイチャイチャしている。このカレー甘口である。
夏休み最終日、扇言は一方的に手相で占われ、恋愛診断の結果を気にする。今はもう扇言の悩みは生死に関わることはないけれど、ネガティブ方向に進むのは生来の気質で変わらない。そして教師と生徒という関係性がある限りリスクが伴い悩みは尽きない。その悩みを灰葉は手相一つで消滅させる、本書にしては分かりやすい胸キュン展開となる。
2学期初日、扇言は安路川(あじがわ)との交際を噂されていることを知る。一馬に続いて恋多き女である。
噂の根拠は『15巻』でのオープンキャンパス。一緒にいたはずの灰葉と別行動をした瞬間を目撃された。扇言の悩みは局所的であれ噂が広がっていることではなく、その噂に灰葉が冷静に対処していること(憤死寸前だったけど?)。そこに温度差を感じる。しかし灰葉も冷静ではない、という2人の体温が同じだという話。…からの恋多き女の もう一つの恋が推察される危機!







