白石 ユキ(しらいし ユキ)
はにかむハニー
第06巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
文化祭▽2人きりのお泊まり! からのお風呂ダイブ!? 熊谷くんとの文化祭デートを楽しみにしていた蜜。だけど人出が多い文化祭で目立ってしまって、ストーカーに見つかってしまう可能性が…! 落ち込む蜜に、熊谷くんがあるアイデアを…!? さらにマキちゃん出張時に、護衛の名目で蜜の家に熊谷くんがお泊まりすることに!! 2人きりの夜にドキドキが止まらない蜜だけど…? 盛りだくさんすぎ▽第6巻!
簡潔完結感想文
- 読者を釣るためのエロシーンが連発されるほど、盛りのついた熊谷の評価が下がる。
- 後付けして用意したストーカー騒動も その前後を2人のイチャラブに利用される。
- 1巻の内に2回の するする詐欺は多すぎ。ファンを逃さないことに必死すぎて引く。
ストーカーを理由に お互いの家でイチャラブ、の 6巻。
『4巻』で蜜(みつ)のイトコ・マキによって蜜に重い過去が付与された。それが高校入学直後のストーカー被害である。この事件や この事件にまつわる胸の下の傷など蜜は熊谷(くまがや)に言えないことが多くあり、熊谷は蜜の心身の傷について第三者から聞かされることによって、何も知らない自分に何度も落ち込んでいた。
そのストーカーの一件に片が付くのが この『6巻』である。本書にしては珍しく単発のエピソードではなく、巻を跨いで展開された事件が終わった。もう これをクライマックスにして作品を終わらせればいいのに、と思うが まだまだ続く。一体 何の勝算があるというのか。思うに この時期の作者は過去作『あのコの、トリコ。』の映画公開があり、出版社側が推すべき対象に指定されていたのだろう。だから内容的に色々と終わっている作品だけど、知名度が上がっている時期に『トリコ』作家の最新作として本書を売り出しているのだろう。ここからも本当に出涸らしになるまで作品は続く。
『5巻』で蜜の文通相手・渚(なぎさ)の正体が二段構えになっていたように、今回のストーカーも二段構えになっている。まず類似しているけれど別件で緊張感の緩急を付けたところで、真のストーカーとの対峙という展開が用意されている。
小手先とも言える構成だが、この二段構えは悪くない。ただ二段構えにしてしまったことで蜜が本物のストーカーに対して無力で終わっているのが惜しいと思った。別件では蜜はストーカー被害に遭ってから体得した護身術を発揮しているが、本物に対しては委縮してしまった。これでは蜜の この1年半の成長が見えなくなってしまわないか。
ちゃんと蜜が護身術で犯人を制圧してこそ、蜜は苦しみから解放されるのではないか。読者としても そこでカタルシスを味わいたかった。一度 制圧したものの、犯人が暴れ、そこから熊谷が蜜を助けにくる、というヒーロー側の二段構えでも良かったのに。本書の展開だと真犯人に対し蜜は男性たちに交互に守られる お姫様でしかない。そう見えてしまうことは序盤の作者からすれば本意ではないような気がするが、作者は この展開を選んでしまったようだ。私からすると こういうところが気が合わないというか、詰めが甘いように思った。
またもや熊谷に対する嫌悪になるが、このストーカー騒動の前後の彼の性欲全開の行動も好きではない。蜜がナイーブになりつつあるのを察知しているのに、熊谷は学校内で彼女を押し倒し、止められなければコトに及んでいたと思うほど がっつく。学校内で「するする詐欺」をする男なんて2000年代の小学館ヒーローでしか お目にかかれない気持ち悪い存在だが、熊谷は それと同類なことが残念だ。森のくまさん に そういう野性はいらない。
その一方で誰も邪魔するものがいない蜜のベッドでの一夜は何もしない。これは止めてくれる人がいないからだろう。作者や作品の都合で がっついているだけで、熊谷が本当に蜜の心情に寄り添っていると思えないのが非常に残念。


ラストもまた「するする詐欺」で終わって、次の巻に読者を誘導する。1巻に2回は頻度が多すぎるし、この時期も まだ蜜はデリケートな時期なのに熊谷はスイッチが入ってしまう。蜜もまたストーカー騒動が収まらない内から熊谷と そういう関係に進んでもいいと思っているから、能天気な人間に見えてしまう。作品が登場人物の品格を貶めているように見えてガッカリしてしまう。
過去のトラウマと言えるストーカー騒動が収束したことで、2人も次の段階に進む、という分かりやすいリンクがあれば読者も納得できるのに、作品は詐欺を繰り返すばかり。これでダメなら もう何も性行為解禁の合図にならない。
いくら長編化してもライバルもストーカーも邪魔者も、結局2人の愛のパワーで撃退しました、という単純な話にしかならないのが作品として致命的な部分だろう。蜜の熊谷くんに愛されている私物語でしかない。何とか過去にストーカーエピソードを捻出して、長らく問題を引っ張ってきたけれど それも終わってしまった。もはやエロ展開しか作者に残された武器はないのではないか。
文化祭当日。蜜は、ストーカー事件が犯人が逮捕されておらず未解決だと知った熊谷から覆面での行動を お願いされる。この回で久々に蜜の護身術が炸裂している。午後は熊谷と一緒に校内を周る。ちなみに蜜の胸の下の傷はストーカーによる犯行ではなくて、犯人から逃げている最中にガラス片が刺さったものらしい。『4巻』の熊谷VS.マキの時もそうだが、ガラス片 落ちすぎ…。
久々に熊谷が気持ち悪い暴走をして、学校内で胸の傷を舐めたり、エロ描写のためのシーンでウンザリする。文化祭の行動は熊谷が欲望のままに行動する男にしか見えず、彼から品格が失われていく。蜜も受け入れる態勢が出来ているのなら、ちゃんと時間と場所を設定して さっさとすればいい。しないのは作品のためでしかないのが見え透いている。
学校イベントの文化祭だが盛り上がることもなく、非日常が少し描かれるだけ。クラス内の結束とか熊谷の再評価とか描くべきものを描かず、エロ路線が悪目立ちした最悪の内容となった。
本書に残された大きなエピソードはストーカーだけ。ある日、美少女の蜜は街中で盗撮され それがSNSにアップされてしまう。人の視線が自分に集まっているのを察知した蜜はマキに相談。だが彼女は これから出張で2日間不在。そこで熊谷が召喚される。
その夜、なかなか寝付けない2人は熊谷から一緒に寝ることを提案され、蜜のベッドで並んで寝る。文化祭の日にエロ描写があったから この日は健全に終わる。今回は熊谷のスイッチが入ったら止める人がいないからだろう。するする詐欺で終わらせる条件が整わないとエロ描写は始まらないという矛盾した前提が必要なのだ。
蜜を取り巻く状況が変化し、蜜に雰囲気が似ている学校の生徒が通り魔に遭う。その情報を耳にした蜜は、生徒が襲われた現場に立ち、自分を囮にして犯人を確保しようとする。その目論見を熊谷に見抜かれ、2人で犯人をおびき出そうとする。しかし蜜がトイレに立ち、通路に入ったところで怪しい男に遭遇。蜜は護身術で男を確保。しかし男はストーカーではなくSNS上で見た蜜の容姿に惹かれてに接触してきただけ。通り魔騒ぎの女子生徒も蜜と間違えて手紙を渡そうとしたところ、相手が驚いて転倒したのが怪我の原因だった。
熊谷がハンドメイド作家として作品の展示・出品を行うイベントに参加し、蜜も売り子として参加する。熊谷はファンシーな作品の作家が自分のような大男では購入者が幻滅するのではと被り物を着用しての接客をしようとするが、蜜は、ファンは好きな作家さんに簡単に幻滅しないと彼に素顔を出させることに成功する。さすが1話で作家だと分かって手のひら返しした女である。
この回は熊谷が多くの女性客にカリスマとして崇められ、そんな特別な人の彼女、という蜜の承認欲求を満たすような回である。お礼とか ごほうび とかを理由にイチャイチャするのもワンパターン化している。


熊谷が売り場を離れ、蜜が一人になった時に真のストーカーが登場する。蜜は恐怖のためか身体が動かず護身術を発揮できない。犯人を無視して熊谷の作品を守ろうとする蜜に怒り、ナイフで切りかかろうとする。そこに現れたのが差し入れを持ってきていた渚(なぎさ)だった。
蜜は渚が傷つくことを恐れ、犯人の注意を自分に引こうとする。渚が蜜の彼氏だと勘違いした犯人が逆上し、蜜に再度 切りかかろうとした際に真打・熊谷が登場する。犯人に対する憎悪で熊谷は無敵。手をナイフで全治2週間ほどの傷を負ったものの犯人を圧倒し、事件は収束する。
ただ蜜の表情は笑顔が笑顔ではないような気がした。それは蜜が熊谷の着ずに責任を感じていたから。この先も絶対に同じようなことが起こらないという確証はなく、自分の存在が熊谷を危険に晒すのなら身を引こうと蜜は少し考えた。それが蜜の考える熊谷の幸せだから。でも蜜に会えない熊谷は不幸でしかないと彼は言う。
12月、クリスマスが近づく。熊谷は まだ手の怪我が完治せず、彼が生活で不自由を覚えているのを見る度に蜜の心は痛む。その姿を見た熊谷は蜜に甘えることで蜜の心を少しでも軽くしようと試みる。
生活に支障が多い熊谷のため蜜は、両親が多忙で家事をしている彼の役に立とうと家に お邪魔する。食事の用意をし、ノートの代筆をし、そして頭を上手く洗えない彼の入浴中に浴室に お邪魔して洗髪を手伝う。
蜜が浴室でバランスを崩して一緒に浴槽に入り、熊谷の性欲が目覚めてしまう。またもや するする詐欺で巻を跨ぐ。こんなことで読者の鼻息は荒くならない。出るのは溜息ばかりだ。