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ハイジャンプで高く跳ぶ一方で 品性は下劣に堕ちる『放課後オレンジ』

放課後オレンジ(1) (フラワーコミックス)
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くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
放課後オレンジ(ほうかごおれんじ)
 私的評価:★★(4点)
   蛇足度:★★(4点)

理由  :陸上競技も恋愛も描写が不足しすぎている。年単位での成長が見たかった。

夏美(なつみ)が入った常和中陸上部は、バスケやサッカーばかりしている変な陸上部。部長は超チビッコ!2年の翼(よく)先輩。頼りにならない翼にイライラしっぱなしの夏美だけど、実は全部、陸上に必要な練習だと知って超ビックリ!しかも初めて見る翼のハイジャンプに大感動!!いっぺんで翼に恋した夏美は!?(1巻あらすじ)

140字総評
出版社側の横槍なのか、作品を象徴するカラーが部活に励む夕暮れのオレンジから性欲のピンクに染め直される残念な経緯をたどる。序盤は中学1年生の主人公が先輩2人から迫られる素敵な展開だが、恋人同士になったら交際3週間ほどで肉体関係が主題に変わる。題材とした陸上競技に土下座して謝るべき。

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暴力やセクハラする男からヒロインを守る ヒーローの翼。だが彼氏になった途端、翼の態度は豹変し…。

基本データ
小学館 Sho-Comi(少コミ)フラワーコミックス 全5巻 全27話 約1,000ページ
掲載誌:Sho-Comi(途中で誌名が「少女コミック」から変更) 2007年 第17号-2008年 第20号
告白 :   8話/27話 ( 29.6%:する)
両想い:  12話/27話 ( 44.4%)
 キス:   8話/27話 ( 29.6%)
性行為:   27話/27話 ( 100%)
エンディング:ハッピーエンド(時間経過:最終ページは3年後)

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放課後オレンジ 進行度グラフ

50字分析
少女漫画4分類:Ⅰ類 標準型
グラフは至って穏当。だが中盤以降は中学1・2年生の男女による貞操問答が始まり、最終回には遂に…。

各巻感想リスト

  1. www.wwwbestlilium.com
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全27話中23話で泣くヒロイン。落涙確率 85%。※ 読者の感動とは無関係です。

放課後オレンジ(5) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
放課後オレンジ(ほうかごおれんじ)
第05巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★(4点)
 

陸上部は全中に向けて猛練習中!だけど、翼(よく)先輩は膝の痛みがつらそう…。反対に、マジメに練習しだした滉士(こうし)先輩が好記録を連発。翼のために何かしたくて、夏美(なつみ)は翼と一緒にいい整体師がいるという福岡へ。でも、治らないまま全中が始まって!?青春陸上ラブストーリー、感動の完結巻!!

簡潔完結感想文

  • 欲情と抑止。彼女から承諾を得たので すぐ致したいヒーロー。止める当て馬。
  • 最後の激闘。優勝しなきゃ致せないので病気の悪化など無視。原動力は性欲。
  • 3年後も10年後も幸せ。幸せを見届けたので、もう二度と会うことは無い。

生という長距離走短距離走の速度で駆け抜けた 最終5巻。

そのスピード感は圧倒されるというより、拙速という言葉が似つかわしい。
作者も登場人物たちも 即効性のある結果ばかり追い求めていた印象だ。

作者に関しては繰り返し書いている通り、エロへの急旋回が悔やまれる。
出版社や読者の要望に従った結果なのだろうが、安易な道を進んでしまった。

また取り上げた陸上という題材でも、登場人物たちの記録を安易に伸ばし過ぎている。
2年または1年間でも彼らの時間を先に進めて、しっかりと彼らの「努力」を描き込んでいって欲しかった。
作中時間が4か月しか経過していないで、恋も部活も性も描こうとして現実味を失わせている。

登場人物においては主人公・夏美(なつみ)の成長はまるで感じられないままで、
彼氏と性行為に及ぼうとする中学1年生の姿だけが嫌悪感として残った。

彼氏である翼(よく)も中学2年生男子の思考そのままに、
彼女が出来たら すぐに性行為を求めていて初登場時のストイックさが消え去った。

当て馬の滉士(こうし)は その逆で乱暴者から徐々に更生していく。
真面目に女性を愛していくが、そうなるとヒロインの夏美にはもったいなく感じる。

品性を落とした翼が夏美にはお似合いなのかもしれない、
というのが全5巻を通した結論である…。


最終回となった主人公・夏美の落涙確率コーナー。
5巻では4話中4回泣きまして、累計で 23/27話となり確率は 85%となりました。

ヒロインが泣きがちな少女漫画の中でも かなり高い確率ではないでしょうか。
どうせなら100%を達成して、名実ともに「泣くだけヒロイン」の称号を与えたかった。


き急ぐように目的に最短距離で突っ走る翼。
なんて書くと格好良さげですが、端的に言えばヤりたいだけ。
(※以下、私の気持ちが すさんでるため言葉に品がありません)

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2人で泊まれば そこはラブホテル。↓の画像の切実な滉士とは違うヤル気に満ち溢れた表情。

その気持ちは時と場所を選ばない。
『4巻』での遭難の際、夏美から身体を近づけてきたことを
性行為の了承と受け取った翼は、厚意で宿泊させてもらう施設で夏美と逢引きを企てる。

もう約束とかムードなんて関係ないんっすね。
本当は全国大会・全中の優勝後に性行為に至る約束だった。

でも彼女がOKなら この機を逃さず、ヤれるなら、ヤってしまおうという心境か。
避妊とか考えてないんだろうなぁ。
自分は彼女が出来て1か月もガマンしたとか考えてるんだろうなぁ。
とんでもない、性欲の化け物やで!


そのルール違反を咎めるのは滉士先輩。
中盤以降は彼が一番マトモに見える。

しかし滉士も自分の原動力として夏美を欲していた。
夏美が自分になびかないにしても、
翼のものにならない状態でいて欲しいという。
本書における性行為は男女の行きつく先、結婚と同義なのかもしれない。

翼は性欲面で、滉士はプラトニックでもいいから、夏美を女神・アテナとしているのか。
アテナは戦いの神であり、処女神でもあるから、
彼女の純潔は最後まで守られなくてはならない、のかもしれない。
(絶対に作者は そこまで考えていないと思うが)

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夏美の純潔が勝敗を左右⁉ 片想いの方が純愛に見えるのは設計ミスなのではないか。

んな滉士の態度にほだされて、夏美は翼を放置してしまう。
せめて直接断ればいいのに。

ただし、この行動は珍しく翼に反省をもたらしたようだ。
自分の拙速な行動は、滉士への焦燥が一因。
翼の中で、グングンと記録を伸ばす滉士に男として競技者としての両面で
追い越されるかもしれない焦りが生まれいた。

その焦りを助長させるのが、続く翼の膝の痛み。

そんな彼の膝の治療のために、
翼を県外の整体師のもとに連れ出そうと奮闘する夏美。
本書の中では数少ない夏美の健気な姿ですね。
ただ、同じ競技者と言うよりは完全に翼の人生を支える側の人間に見えますが。

その際に、乱雑に語られるのが翼の家庭の事情。
これは序盤から各所に伏線を張っておいた問題だと思うが、
終わりが近いからか、ざっと事情をさらっただけで終わる。

部内恋愛禁止とか、女の影(市川(いちかわ)マネージャー)とか、
少しでも2人の恋愛の障壁として役に立てば、事後処理は結構 適当である。


して全ての決着の地・全中が始まる。

会場でタトゥーの入った分かりやすい不良に絡まれる夏美を助けたのは半裸の滉士。
合宿での滉士の懇願以降、顔を合わせるのも気まずいが
これが契機となって、滉士の決戦に際しての個人的な宣誓を聞くことが出来る。

「応援なんてしてくれなくていい
 ただ最後までオレのジャンプ 見ていてくれよ」

そんな思いを抱える滉士を、自分は応援できないことで泣く夏美。
ヒロインしてますね。
そのお陰で翼が少しだけヒーローっぽい行動をしてくれた。

ただ作者は、翼と滉士が並び立てるようお膳立てするだけでなく、
夏美を ちゃんとヒロインとして成長させるべきだった。
それがないから いつまでも2人に愛される意味が分からない人になってしまった。
(というか滉士には、ですね。翼とは ある意味で お似合い。)

にしても夏美の男性の身体に逐一 反応する描写は何なんですかね。
憎からず思っている人の裸体が目前にあるから、そう思うのが自然ではあるが、
それを毎回、漫画の中で描いてしまうと彼女の純粋な想いまで汚されていくと思うのだが。

異性の身体に興味津々なのは男性だけじゃないよ、という平等性なのだろうか。
常に発情しているようにしか見えない。


ージ数や最終回までのペース配分の問題からか試合の展開が早い。

試合の面白さという点では、『2巻』の方が丁寧に駆け引きなどまで描けていた。

翼と滉士、2人の最終決戦なので、彼らが交互にジャンプをしているだけに見える。
最終決戦まで少しずつバーを上げなければならなかったのに、最後が一番波乱がない。
盛り上がるところで盛り上がりきらなかった印象を残す。

そんな試合展開だけど「2人ともカッコよすぎるよ」と観客席で涙を流す夏美。
泣くことで読者の感動を呼び込もうとしているのが見え見え。


滉士は夏美の目を意識するあまり失敗を重ねる。
そんな焦りに飲み込まれる彼の頭を、翼は水で冷やす。
彼にとって滉士はライバルであり、尊敬する先輩で、仲間だということがよく分かる。

…が、この後が良くない。

「…俺が優勝したら 明日 桜井(夏美)をオレの部屋に さそいます」

気持ち悪~!!
競技に集中するどころか、頭の中はエロしかない。
ってか、自宅しかも間借りしている部屋に 誘うんじゃないよ。

しかし性欲を原動力にする本書の男には効果的な言葉だったようで、
滉士は自分を奮い立たせ、持ち直す。


試合中に演出のために「2人が…どれだけ努力してきたか」という常套句が出てくるが、
翼はともかく、滉士は競技から約半年間 逃げ出して、復帰して4か月である。

滉士先輩は4か月で40センチほど自己記録を伸ばしている。

夏美といい短期間で記録を伸ばしてしまっていることが、
努力という言葉の価値を下げてしまっているように思う。


は滉士に助言ができるほど冷静でいる。

しかし膝の痛みは悲鳴を上げ、ジャンプの精度が上がらない。

見かねたスタッフが棄権を提言するが「俺 気が短いんです」と返す翼。

そうだねガマンが出来ない子だもんね。
「今 跳びたい」し、明日、ヤりたいんだもの。


予想通りではあるが優勝は翼。
これは性欲の強さの勝利でしょうか。

その証拠に救護室に駆けつけた夏美を押し倒し、一戦 始まりそうな気配。

しかし何とか自制し「お前の心の準備ができるまでガマンする」と語る。
合宿での、すっぽかしが彼を臆病にしているらしい。

これは作者が、暴走した物語と翼をせめて元の状態に戻そうとしたのだろうか。
時すでに遅しだとは思うが、翼が清く正しい中学2年生に戻った気がした。

そして それをまた傍で聞いている滉士(立ち聞き魔)。
2年後から翼と同じ舞台に立てる高校総体でのリベンジを誓って去る。


ストシーンは、大会から3日後の陸上部員たちによる翼先輩のパーティーの場面。

開始早々、翼の飲み物がかかって服が濡れてしまう夏美。

会場は翼が間借りする市川マネージャーの家なので、
市川先輩がシャワーと替えの服を勧めてくれる。

夏美がシャワーからあがると、部員は誰も料理に手を付けないまま帰っていた。
どうやら気を遣って2人っきりにしてあげたらしい。
よもや翼が帰れと怒鳴った訳ではあるまい(彼ならあり得る)。

夏美がシャワーを浴びる状況になったら帰るって、部員たち空気読み過ぎ。
というか翼がコップを倒したのも全て茶番劇の一環だったのではないかと疑ってしまう。

2人きりになったことで理性が限界の翼。

帰ろうという翼に夏美は
「…あたし 心の準備できてます」と返答する。

ハイ、翼のガマンは3日間だけでしたね。

直接的な描写は一切ないが、絶対に致しましたね、この2人。
しない理由がないですもん。
『3巻』で約束もしましたし。

中学1年生の女子と中学2年生の男子が、交際から2か月で致した話です。
陸上は飾りです。
性行為に至るための2メートル10センチの壁です。
性欲だけがハイジャンプの原動力です。


…からの3年後。

「あたし達は そろって全国への舞台へ―――」

夏美が高校に進学する3年後には、3人揃って高校総体に出場しているようです。

見所は翼が、夏美の身長より高く、
滉士と同じ身長(初期設定では178センチ)まで伸びていることでしょうか。
膝の痛みは成長の副作用だったわけですね。


3人に関しては仲良く暮らせばいいと思いますが、気になることが一つ。

全中の大会は「世界的ハイジャンパーの第一歩」となったらしい。
これは翼だけでなく滉士もなのだろう。

ただし気になるのは、『1巻』で翼を「不世出の天才ジャンパ―」と称していたこと。

不世出は大雑把に言えば、後にも先にもいない、と同義らしい。

よって翼は一人で群を抜いた成績を収めるということ。
ひるがえって滉士先輩は翼に並び立たないということではないか。

翼と滉士のライバル関係はネバーエンディングストーリーだと見せかけて、
勝者は常に翼であることが最初に語られていたのだ。

滉士はハイジャンプにおいても翼の当て馬でしかないのだろう。哀れ。

まぁ、作者がそんな布石を打って物語を作っているとは思えない。
未来なんて簡単に変えられるだろう。
翼より多いであろう滉士ファンの皆さん、悲しむことなかれ。


「お姉ちゃん泥棒」…
ひとつ下の妹と幼なじみの文(あや・男性)の命令に従う毎日の唯子(ゆいこ)。
そんな彼女がラブレターを貰ったことで人生は一変する⁉

後年、作者が大成するので言えますが、稚拙の一言。
あちこちに話が散らかってる。
どの人物の気持ちもトレースできない。
こんなにダメな漫画は久しぶりに読んだ。
内容も胸糞悪くなるばかり。
でも出版社への漫画投稿作って こんなクオリティなんだろうな。
デビュー後だけど、そのレベルです。

そして題名が内容と全くリンクしていない。
そして誰が一番 性格悪いって、妹じゃないだろうか。
実の姉の惨状を横目で見ながら、スネ夫ポジションに収まる。

ヒーローはジャイアン的存在だが、ジャイアンの1/100も魅力のない男。
こんな暴力男が おいしいところを攫っていく少女漫画界は どうかしている。