《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彼女の過ちも 切り出された別れも 1話で解決してしまうヒーロー。長編に向かないヒーロー。

コスプレ☆アニマル(8) (デザートコミックス)
栄羽 弥(さこう わたり)
コスプレ★アニマル
第08巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★(4点)
 

リカ衝撃の別れ宣言? そして元(ハジメ)はアメリカへ――!? 元の腕の中に戻ったリカ。けれどアラタとの過去は消せない。ケジメるためにもいったん「別れよう」って……!? 傷心のアラタ編も収録。新展開もスタートで超注目の8巻ですっ!

簡潔完結感想文

  • 仲直りと思わせて お別れ。…と思わせて仲直り。犬も食わない夫婦喧嘩を読ませられている気分。
  • 年下のスパダリが漫画を崩壊に導く。インフレを起こした少年漫画と同じような 置いてけぼり感。
  • 恋愛問題が小休止に入ったのでコスプレ祭復活。顔の判別も怪しいイケメンたちの恋愛話もあるよ。

れても好きな人、振られたけど好きな人、の 8巻。

あらすじ にある「新展開もスタート」ってのは何を指しているんでしょうか。
身も蓋もない言い方をすれば、本書は『2巻』あたり から何も変わってないですよね。

私としては腹立たしいというよりも、虚しくなります。

本書に特に好きなキャラクタもいないので、
純粋な長編としての面白さを追求したいところなのですが、
それが上述の通り、物語が1ミリも動く気配がないことが虚しさに通じる。

作者は登場人物たちが可愛くて動かせないのかな、と察します。
主人公に浮気をさせれば新展開は見込めるが、読者の反発などを受けるのは必至。

それを回避しつつ、ギリギリのラインでドラマを生み出そうとしている痕跡は認められるが、
結局、同じ場所をグルグルと周回しているだけ。

作者に必要なのは、嫌われる勇気ではなくて、物語を終わらせる勇気だったのでしょう。
長編としての価値は ほぼありません。

むしろ言葉でドラマチックに演出しようとすることで、
かえって内容の安っぽさが露呈している感じがします。


人公のリカと元(はじめ)のカップルは、彼氏が現役高校生で、彼女はその2歳上。
時に多少のすれ違いがあっても、もう今の恋が生涯にわたる恋だと思っている。

もう一人、リカに想いを寄せる元の親友・アラタ。
親友に宣戦布告してリカに想いを伝え続けるが連戦連敗。
それでも諦めないアラタの描写が続く。

これが『2巻』から変わらない構図。
この三角関係をメインにして早7巻。

今回、カップルの関係に かなり劇的な展開が起きたと思ったら、すぐに修復。
それを見たアラタが今度こそ諦めるかと思いきや、失恋モードに突入するだけ。

『7巻』のラストで最終回のような仲直りを見せたかと思いきや、
気まずさが残り、リカが別れを切り出す展開になったのには驚いた。

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スパダリの彼女でいるのも疲れるものです。だって気持ちが浮ついているから。

だけど、別れたその回の中で仲直りするとは…。
めでたいけど、もうこれ以上、話が展開しないと実証してしまった。

半年間は長いけど、別れて、想いを募らせても良かったのではないか。


遠距離恋愛や失恋、次の恋への進み方など、
描きたい内容はあるのだろうけど、
この登場人物たちでは いまいち伝わってこないのが現状。

主人公が何をしても、現役高校生の男子が許容してしまうという、
ウルトラスーパー夢物語が基礎にあるために、何が起きても切実に思えない。

恋愛のハイパーインフレが止まらないので、
もう どんなことも些細なことに思えてしまう。無敵すぎる。

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1話で別れ話を乗り越えたリカに比べて ずっとヒロイン気質が見られるアラタ。悩んで悩んで7巻目。

よいよ作者が自分の世界を愛し始めたな、と辟易したのが本書収録の最後の話。

元やアラタがバイトするカフェ・フェリーチェの他の従業員の恋愛話をまとめた一編。

四者四様の恋愛を描く恋愛オムニバス、
そして作者の大好きそうな恋愛指南書の体でお送りする お話なのだろうが、
誰だよ お前たち、と言いたくなる、
顔と名前も覚えてない、興味のない人たちの、
即席な恋愛模様を読まされるのは苦痛に近い。

私はオムニバスではなく、たった一人の本当の恋が読みたいのだ。


登場からしばらく経つのに動き出さない古賀(こが)も不気味。
アラタが本格的に三角関係から撤退するまで動かないのかな。

そうなると結局、リカのモテモテ漫画になっちゃうんですよね。

そのリカは前巻から私の中で好感度が だだ下がり。
強そうに見える分、彼氏に庇護されている姿に違和感を覚える。

そして色々考えているようで、流されていて、一番の悪手を採り続ける。
少女漫画のヒロインとしては仕方ないが、こう何度も同じ間違いをされると読む方も辛い。


こ数巻の中では大きな恋愛イベントが終わったからか、
しばらく中断していた恒例のコスプレも復活。

人気キャラ・アラタの様々なコスプレが見られればファンは満足か。

そして本書におけるコスプレは変装に近いものがある。
コスプレをしていれば身近な人も、その人が誰だか分からなくなるらしい。

これは犯罪にも使えますね。
カフェで起こった盗難事件の犯人はコスプレしていたから侵入できた、
というミステリ仕立ての話も面白いかもしれない。

にしても いくら高校が制服コスプレの聖地とはいえ、
リカは母校のイベントに関わり過ぎですね。


そういえば、元の学校での性行為はマーキングだったんですね。

以前は自分の高校で、今回はリカの通う大学で「縄張りづくり」のための性行為をする。
そうすれば、その場所でリカが他の男に寄り付かなくなる呪術ですかね。

なんにしても公共の場所では迷惑なので止めて欲しい。
そういう意味での淫らさは本書にはなかったはずなんだけどなぁ…。

そしてケータイで自らの裸身を撮影して恋人に送る主人公。

別れたらリベンジポルノの脅迫材料になりかねないので、
良い子の皆さんは真似しないように。

一強多弱のイケメン戦国時代。ヒーロー 追放のために作者が起こした本能寺の変。

コスプレ☆アニマル(7) (デザートコミックス)
栄羽 弥(さこう わたり)
コスプレ★アニマル
第07巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★(4点)
 

「オレの名前呼んでよ。」元(ハジメ)不在でアラタの反撃開始! ――元がアメリカへ行ってしまい、寂しくってしょーがないリカにアラタが猛烈アタック開始! 「このままオレのこと好きになってよ。」元とアラタ、二人のあいだで揺れるリカのココロの行方は……!?

簡潔完結感想文

  • 物理的距離は心理的距離。たった5日間 恋人に会えない寂しさで出会いを求める出会い系 女。
  • 機能しない新キャラたち。人でなしアピールの男性と、なぜか一緒に帰国した意味不明な女性。
  • 空港に向かう貴方に思いの丈をぶつける、最終回っぽい展開。説得力のないヒロインの絶叫。

やぁ 良い最終回だった。えっ、まだ折り返し地点なの⁉ の 7巻。

前巻『6巻』において、漫画の新展開のために、
ヒーロー・元(はじめ)は、親が倒れたためアメリカに旅立ってしまった。

彼の父親を重病にさせてまで果たしたかったことは、
主人公・リカ と元の物理的・心理的距離を置くことだろう。

傍にいると、あっという間に問題を解決してしまう男子高校生のヒーロー。

お話が1話完結の場合は非常に助かる存在だったが、
長期連載を視野に入れた作者や編集側にとって元は一番の邪魔者になったのだろう。

作者がヒーローを追放するという前代未聞の革命。

が、この非情な決断によって本書が何を描けたのかは非常に疑問が残る。
もう どんなカンフル剤も効かないぐらい、本書の命は消えかかっているのではないか。

この『7巻』のラストが最終回で良かったじゃないか。
少なくとも、この約2倍も続けられる体力は本書には残っていない。

だってヒーローが強すぎるんだもの。
彼に勝てる人はどこにもいない。

でも今回のラストで根拠のない「半年間」の追放が決定されます…。


たった5日、たった5日間 元と離れただけでリカは人恋しくなり、合コンに参加する。

そういう女ですよ、リカは。

『3巻』では2週間ぶりに会う お祭りの日の話があるが、
その1/3の長さで、寂しさは限界を迎えたらしい。

今回は物理的距離があるし、次に会う約束もないから、という言い訳はできるだろう。

更に言えば、この合コンこそ作者の狙いだろう。

元が日本にいないからこそ、リカを想うアラタや、
『6巻』から登場した古賀(こが)が リカとの距離を縮める機会に恵まれる。

…というのは分かる。
リカが軽薄な行動に出なくては、何のドラマも生まれない。

それは分かるのだが、
リカの行動は、元との関係性を一層 薄弱にするものである。

ただでさえ、出会い系サイトで出会って、
コスプレを肯定してくれた、という弱い繋がりなのに、
リカがフラフラしていたら、純愛としても読めなくなる。

これまでも作者は仲直りや、仲を深めるシーンでは、
コスプレの肯定だけじゃない、元だから好きなんだと繰り返して、
この恋愛に少しでも重みをもたせようとしていたが、
ドラマを創作するためには、その逆の行動もさせるという矛盾が露呈した。

リカが肉体的にも精神的にも痛い目を見るから罰は受けているのだが、
色々な都合で海外まで飛ばされて、傷つけられるだけの元が不憫でならない。

今回起きたことが逆の立場ならリカは別れていただろう。

自分のいない間に 合コン、自分の親友と何かがあったという確信、
そして自分の家の前で その人とキスをしている場面を目撃。

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少し前に誕生日だった君と、誕生日を迎えたばかりの私のキス。それを彼氏に見られるサプライズ!

これだけの行動をして許されようという厚顔無恥さが腹立たしい。
元、若いんだから別の人を、と言いたくなるのも必至だ。


ラタは、今回のラストで本当に諦めてくれたのでしょうか。

本書のもう一つの問題は、一度出した結論がひっくり返されることだろう。

どんなにリカがアラタに諦めるように水を向けても、
アラタが諦めない限り、三角関係は継続し続ける。

毎度毎度、アラタの攻めの姿勢はリカの元に対する想いを補強するだけに終わる。

だが、どんなことにも「ワンチャン」はあるようで、
リカは元と遠距離になったら たった5日で人肌恋しくなった。

今回は最大のチャンスなのに、攻め切らないアラタ。
そして繰り返される再放送。

このラストで、今度こそ諦めた、と私は思うが、
必要に応じてアラタの気持ちは解凍されるだろう。

ツンデレでヘタレで純情という便利なキャラですもの、アラタは。
漫画としては元より使い勝手は数倍いいだろう。


載も長期化したからか、『7巻』の途中から、
これまで拘泥といっていいほど こだわってきたコスプレ縛りがなくなった。

まぁ、書名にもなっているので、重要な要素ではあるが、
今回のように合コン会場で いちいち着替えてコスプレをする、という
強引な展開を持ち出すぐらいなら、きっぱりと止めるのも良いかと。

ただ、コスプレがなくなると、残るのは安い恋愛描写ばかりである。
コスプレという最大の個性を奪われたリカなぞ、頭の弱い子でしかなくなっている。

嫉妬したり、人恋しくなったり、
等身大の女性といえばそうなのだが、
漫画の主人公としては核となるような性格や信念が見られない。

これも後半における この漫画の欠点となりかねない。


本書のあるあるとしては、
恋愛に不安の影が差すと リカが怪我をする という法則があると思います。

いつぞやも高校の文化祭で怪我をしてましたね(正確には元が。『4巻』)。
そして最終回の前でも…。

怪我をすることでリカが罰せられる意味があったり、
逆に庇護される対象となったりしている。

今回の怪我はどれも浮ついたリカが招いた自業自得の怪我である。

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(左下)間違い探しかな? 目が少し違う、髪型と髪の色も違う。他は同じ!

そういえば元の父親の病気は なんなのだろうか。

なぜ容態が安定していないうちから「半年間」という具体的な数字が出てくるのか。
そして高校生である元がずっと付き添わなければならない必要性は果たしてあるのか。

しかも『7巻』から登場した謎の女・深咲(みさき)がいるのに。
というか、深咲はなぜ元と一緒に一時帰国しているのか。

取ってつけたような病気だからディテールが甘い。
こんなに結末が分かりきっていて、経過が気にならない恋愛も珍しい。