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少女漫画と小説の感想ブログです

ないものねだる子供のように ただ、今をはやく伝えたい『「ただいま」』

たいようのいえ(13) (デザートコミックス)
タアモ
たいようのいえ
第13巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

「やっと言えた…。」改めて基(ひろ)と2人きりでデートをすることになった真魚(まお)は、意識しまくってしまって、普段通りにできない。そんな真魚にも優しく合わせてくれる基。お互いのこれまでを振り返って…そして、ついに我慢しあってきた想いを告げる時が!! 年の差幼なじみのラブストーリー、涙、涙の完結第13巻!! 感動のフィナーレ!!

簡潔完結感想文

  • デート回。13巻でデートは2回目。同じ空間にいるのは慣れっこだがデートは慣れない真魚
  • 妹の帰宅で基の宿願が叶う日。だが基にはもう一つの願いがあって…。たいようのいえ完結。
  • 住人が変われば家のルールも変わる。本書を閉じた読者たちも、毎日を楽しくすごそう。

食足りて礼節を知る。そして衣食「住」が足りて恋を知る、完結13巻。

『13巻』は本編が2話、そして番外編が2話の構成です。

そういえば本編の最終回の掲載は雑誌の3月号だったんですね。
すぐ隣に感じる春の予感を含ませながら、作中の時間と同じ頃に物語が幕を閉じる。
粋な仕掛けだと思います。

番外編では本編で恋に破れた人たちに救済の機会が訪れます。
傷つくことがあっても誰もが前向きに明日を迎えることが出来た結末は本当に好きですね。

振り返って見れば『1巻』では言動が粗野だった主人公の真魚(まお)は、
基(ひろ)と暮らすようになって、言葉遣いも柔和になり、お箸の持ち方も矯正された。

そして、高校2年生まで恋というものに目覚めておらず、自分に告白してくる男子も意味不明と一刀両断。
だが、基との生活の中で衣食住、そして誰かに必要とされる喜びを知って真魚は恋に目覚めた。
相手は母性溢れる男性の基だったけど。

『1巻』で早くも告白した真魚だったが、冗談として撤回。
彼らの抱える案件を解決しないとこの恋を進めないと決めた。

あれから1年、巻数にして13巻。
ようやく彼らの恋に何の障害もなくなったのであった。

当初は、自分の問題に片が付くまで恋愛を先延ばしにする律儀すぎる登場人物たちにやきもきした。
真魚なんて受験生に突入したわけで、この問題はいいのかと思ったり)。

だが、全体の構成がとにかく秀逸。
当時の流行を取り入れただけかなと思っていた主人公の書くケータイ小説もうまく機能していたり、
読者の予想の1テンポ早い展開の連続で飽きさせない工夫があったり、感心する箇所が多数ある。

少女漫画的には同居モノに分類されるかもしれないが、本書の家は単なる設定ではない。
住む者の想いを繋いでいく家なのだ。


編の1編目は、真魚と基の恋のはじまり。

真魚の母親の件などで1巻丸々遠回りをしてしまったが、
ようやくデートっぽいデートをして1日を過ごす2人。

主に一つの家を舞台にしていたから、どうしてもインドアなイメージがあって、
外出して、デートコースを回る2人の姿には目新しさがありますね。

基が、真魚の大学卒業時の自分の年齢を気にするのは、やはり結婚を意識しているからでしょうか。
そして2回のデートで2回とも牛丼を食べる真魚
本当に好きなんですね。飾らなさが真魚っぽい。

日も暮れてイルミネーションを見に行った港町の観覧車の中で改めて落ち着いて会話をする2人。
互いに、これまでの感謝と、今まで言えなかった想いを伝える。

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ベタなデートに ベタな告白シーン。でも これまでの過程を思うと視界が滲んでしまう…。

早くから想い合いながらも、甘えた関係にならないために自重していた2人。
好きだけど好きと言わない面映ゆい関係性も好きだったが、
いよいよ全ての事案に目途がついたため、決着の時を迎える。

観覧車の中での告白は基なりにムードを考えたのでしょうか。
これまで正式な交際は始まっていなかったが、キスやイチャイチャしていた2人。
基なりのケジメの儀式は、最高のシチュエーションで、との考えか。

基の一番の美点は 頑張れること、ではなくて、それを誰かのお陰だと思えることですね。
晴れて弟妹が実家に帰ってくることも真魚の存在なくしては出来なかったと真魚に多大な感謝をする。

実際、真魚がいなければ、基はこれほど積極的になれなかったかもしれないが、
しかし、両親を亡くした時からこれまで この家を支える大黒柱として踏ん張ってきた事実は変わらない。

それがどんなに孤独で、どんなに自分の人生を賭けてきたことなのか、
基は自分では語らないだろうし、作中の描写も最小限である。

自分の頑張りを当然のように受け止める。
なんて素晴らしい人なのだろうか。

また番外編で基が異動になり、同僚のラジカル杉本(すぎもと)さんと別れる際も、彼女や周囲の心配ばかりしていた。
自分を二の次に出来るって、とても凄い能力だと思う。

基は好きになる価値のある人だなぁ、とつくづく思う。


編2編目は、いよいよ実際に基(ひろ)の妹・陽菜(ひな)が帰宅する日の出来事。

今日この日を迎えるために、基の人生はあったと言っても過言ではない。

その日に基が兄弟3人で暮らす家に6人がけのテーブルを家に配置したのは、
両親を亡くしたあの日で止まってしまった時間を動かすためでしょうか。

そういえば真魚は春休みに基と2人で旅行に誘われましたが、
その意味を真魚は分かっているのでしょうか。

心の中で「基と一日中2人きりか いちゃいちゃ しまくれる」とは思っているみたいですが、
果たして色っぽいことになるのかならないのか、それとも1編目の観覧車の後でもう既に…?

そして観覧車に続き、思い出のたくさんある近所の神社での基の告白。

てっきり基たち家族の中村(なかむら)家の太陽である陽菜ちゃんの帰宅こそが書名の意味するところだと思っていましたが、
基が作りたい理想の家は、真魚がいる家、真魚といる家なんですね。

書名の意味が分かった時にまた感動が湧き上がってきました。

ラストシーンは皆で、真新しいテーブルを囲む場面。

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家族を迎え入れること、家族で食卓を囲むこと。あの日からの夢が叶った日のこと。

家長である基の挨拶で「真魚も含めて」という言葉に何かを感じ取った陽菜。
これは真魚も将来の中村家の一員であるということでしょう。

ちなみに真魚の悪いところといえば贈り物に自分の好みを入れてしまうところですね。
今回の陽菜といい、以前の妹へのプレゼントといい、
人の意見を聞かないで、万が一 聞いてもセンスが同じの基の弟・大樹(だいき)なので、
あんまり喜ばれないプレゼントばかり選んでしまう。


巻の感想文の題名は、一青窈さんの「ただいま」の歌詞を使いました。
以前、小玉ユキさんの『月影ベイベ』でも同じ手法を使いましたが、
こんなにも内容と合致する歌があるのかと驚くばかりです。
まぁ、あくまで私個人の思い入れなんですが…。


「番外編1 恋の報告」…
ラジカル杉本さんの恋の報告。正確には杉本 愛(すぎもと あい)さんの報告でしょうね。

4年間ネット上で交流していた人と初めてリアルで会うことになった杉本さん。
だが、そこに現れたのは想像と全く違う人で…。

目の前にイケメンモデルが登場するのはさすがに夢物語か。
読み返すとかなり前から「るいるい」さん の設定がされていることが分かる。

杉本を幸せにするのは絶対 大樹だと思っていたのに。
でも基よりも年上の杉本さんって幾つの設定なのだろう。

恋することを決してネガティブに描かないというのは作者の意図だろうか。
ずっと好きだった基ともお別れが出来、そして次の恋が芽生える。

「番外編2 おかえり」…
新年度も始まり、両親の命日に親戚一同が中村家で集まる日のこと。

夏服なので6,7月ぐらいか。
陽菜がいた家のおばさんが無事出産したみたいだから結構な時間経過だ。

どうやら陽菜が通うのは制服が違うので、大樹たちとは違う高校みたいですね。

中村家の催しに真魚が来るのは単なるヘルプだけではなく、親戚への顔見せにも思えますね。

陽菜が真魚と対面して喋る場面は少なかったので、こういう場面がいちいち嬉しい。

かつて、もしかしたらまだ好きな人の幸せを「世界で一番」思うことの出来る大樹。
彼もまた恋をきちんと終わらせて、そして始めようとしている。
杉本&大樹にとっては、連載のおわりは、恋のはじまりである。

そしてラストシーンがまた素敵である。
2人が家族になった未来には、こういう風に出迎えてくれる人がいる。
最後のページの後にはこう言いたくなるに違いない。

「ただいま」

帰る場所を みつけたから あのときの私 許して『「ただいま」』

たいようのいえ(12) (デザートコミックス)
タアモ
たいようのいえ
第12巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

その手がどんなに救いになるか誰よりも知っている。あの人が独りでいるなら私は返していかないといけない……少しでも。――「お母さんと一緒に暮らさない?」突然訪ねてきた実の母・柚乃(ゆずの)からの提案。身勝手だと思いつつも、母の孤独を知り突き放すことができない真魚(まお)。孤独な自分に基(ひろ)が、みんなが手を差し伸べてくれたように、自分も母を支えるべきでは……。悩む真魚が、最後に出した結論は……!?

簡潔完結感想文

  • 母の再来。かつて独りだった自分は、今 独りの母の気持ちが分かる。自分の望む暮らしとは?
  • 引きこもり逃げ込む真魚を家族のいる食卓に連れ出してくれたのは義母。救いは基だけじゃない。
  • 空海返上の儀式。奪われたペンネームが戻ってきた。再読すると分かることってあるよねと共感。

る意味で壮大な寝落ちの 12巻。夢落ちではないので ご安心を。

自分を受け入れてくれる家が欲しかった主人公の真魚(まお)と、
家の中に誰かを迎え入れたかった年上の幼なじみ・基(ひろ)。

真魚たちの かりそめの家族ごっこも終了し、お互いの本当の家族が一つの家に集合する目途が立った。
一緒に暮らしていく時間の中で互いに好意を持ち始めた2人だが、
甘えた関係に陥ることのないように、目標達成までは恋愛を自制していた2人。

2人の恋の障害は何もないと思われていた矢先、
もう一人の本当の家族が真魚の前に現れて…。


魚の母親が真魚の前に10年ぶりに姿を現わしたのだ。

この10年で ちょっとした事業に成功したという母に真魚は、一緒に暮らさないかと提案されるのだった…。

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真魚との再会を心の底から喜んでいる様子の母。彼女は良い暮らしを提供すると真魚に申し出る。

真魚の母はまさに物語最後の難関で、基には頼らない真魚の成長を感じられる奮闘の記録でもある。

同じ頃、仕事で修羅場を迎えている基は真魚に割く時間がない。
独り懊悩する真魚は再び自作の小説世界に逃げ込んだり、
心配する今の家族と顔を合わせないようにしたりと、まるで元の真魚に戻ったようにも思える。

だが、悩むのもまた彼女の成長の証でもある。

血の繋がりのなせる業なのか、会わなくても、育ててもらわなくても、
真魚と母は、真魚が自覚するほど容姿や表情が似ているし、趣味も合うみたいだ。
今の家とは違い、母は真魚だけを母なりに愛してくれるだろう。

もしかしたら彼女は10年間の隔たりを埋める可能性を秘めている人なのだ。
だから「勝手な人だと 心から思う」としながらも悩んでしまう。

そして母は真魚に手を差し伸べてくれる人、そして真魚の手を必要としてくれている人、
という認識もしっかり出来るぐらい人の機微を理解するのが今の真魚なのだ。

独りでいる母に、独りだとは思わなくなった自分が今度は何かが出来るのではという思いが生まれることも成長ではあるのだが…。


論から述べますと、真魚は母との暮らしを拒みます。

どちらが正しいか確定は出来ない問題ではありますが、
真魚の選択が間違いではなかったのではないかと推測できるような幾つかのヒントが作者によって散りばめられているような気がします。

まず第一に真魚母の信用ならない点は、真魚に暮らすことを提案する際の会話の順番。

順序や順番というのは私が本書を読む中でずっと気になっていた点。
想いが通じながらも真魚と基が恋人関係にならないのも順序を重視するから。
また多くの告白が正しい順序を踏んでいることでに彼らに打算が ないことが分かった。

だが、真魚の母の順序はどうだろう。
一緒に暮らしたいという本題の前に、真魚を大きく揺さぶっている。

真魚の父、自分の元夫が真魚を本当の子じゃないかもしれないと疑っていたという心配に見せかけた会話を優位に進めるための布石。

確かに、真魚父は過去を回想した『4巻』の話で妻にその話をしていた。
だが、そんな話が以前も出ていたことをすっかり忘れていた私は、
改めてそんな可能性もあるのか、と真魚と同じレベルで驚愕してしまった。

そうして大きく動揺し、真魚を正常な分別を失った状態にさせてから初めて母は自分の想いを伝える。

なんとも卑劣な手法である。
まさか母の成功した事業って「オレオレ詐欺」をはじめとした、特殊詐欺じゃないでしょうね…。
そうでないにしても人心掌握術を駆使した計算高さを感じずにはいられない。


そして、もう一点。
真魚の母が提案する暮らしは、物質的・経済的な裕福さ ばかりであることも気になる。

真魚との再会に際してはプレゼントを用意し、
スマホを持っていない真魚に対し、買い与えない父親を非難している。
そして一緒に暮らした場合、転入を提案するのは現在 通っている公立高校(多分)に対しての制服の可愛い私立高校。

彼女の言う「真魚を絶対に幸せにする!」方法は、甘やかすだけで真魚本人と向き合っていない方法なのだ。


そこから浮かび上がってくるのは、真魚も感じていた母の孤独。

社会的な成功で満たされていくものと対照的に満たされない心。
どうしようもなく独りだという現実。

母にとっては、真魚はそんな心を埋めるパーツ、
もしくは自分が経済的に満たされたことでの慈善事業にも思える。

虐待や自分が原因の離婚などで子供を苦しめた親が、
自身が高齢者になってから子供である自分に連絡を取ってきた、
どう対処するべきなのか、という子供側からの人生相談の内容はよく見る。

まだまだ若いが、母も自分の人生が折り返し地点を過ぎたことを痛感しているのだろうか。

それとも女性としての幸せが手に入りにくい年齢に差し掛かったことも理由だろうか。
あんまり信じられない話だが、離婚の原因となった、あの男とすぐ別れてから10年間ずっと独りだったらしい。
結婚や離婚のキッカケといい、実は恋愛が下手なのかもしれない。


しかし真魚の母は なんで現在の真魚と元夫の家が分かったのでしょうか。
妻に出て行かれて後に元夫が引っ越した家なのに。
(考えてみると真魚父も真魚との2人暮らしに一軒家に引っ越すのも少し変かも)


母の問題に寄り添ってくれるのが、義母という構図も印象的ですね。

部屋に引きこもりがち、小説世界に逃げ込みがちな真魚に対して、
辛抱強く、時には厳しく接する義母。

義母は自分の母親との関係を真魚の参考にと聞かせる。
連れ子同士の再婚を反対しているが、いつも娘の自分を想ってくれている母だという。
義母の真魚への思いやりや優しさはそんな母の想いを受け取っているからなのかもしれませんね。  
もちろん、不幸にならないぞという意地もあるのでしょうが。

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一人で出した結論を引きずる真魚を迎えてくれるのは家族たち。帰る家はここにある。

また義母以外にも、親友の千尋ちひろ)にも今回はちゃんと相談している。
基だけに決して依存している訳ではないという証明だろう。
そして、友達枠として復活を予感させるのはラジカルさん。

魚が小説世界に逃避することによって、
更新が停止していた真魚ペンネーム「空海(くうかい)」のケータイ小説が再開され、
それによって棚上げされていた「奪われた空海問題」もまた議題に上がる構成が見事ですね。

書き手が真魚と知らずにネット上で友達になった、ラジカル杉本(すぎもと)さん と真魚
同じ人を好きになってしまい、更には杉本さんが空海が自分だと真魚の前で基(ひろ)に伝えたことでこじれた関係。

だが今回、書き手を真魚だと知った上で空海の小説を通読することで浮かび上がってきたのは小説に託した真魚の真意。

ラジカル杉本さんは基に自分が空海ではないことを明かし、そして基にも通読を勧める。
小説の中の違和感とそして郷愁、再読で基は数々の発見をし、そして作者を知る。

基に気づかせる過程が本当に素晴らしいですね。
まさに伏線回収という感じでカタルシスも感じる。

一見不要かなとも思える真魚母の再登場も、真魚の逃避には必要で、
それによって全てがリンクしていくという連鎖反応が生まれる。

1巻丸々、恋愛関係の進捗がなかったが、最後にしっかり繋がるなんて本当に凄い構成力だ。

何だか凄いものを読んでいるぞ、という喜びは、ここで終わるか!! というツッコミに変わる。
残念ながら次巻が最終巻。
真魚たちには悪いが、こんなに叶って欲しくない恋も珍しい。